MAX「情熱のZUMBA」

情熱のZUMBA

情熱のZUMBA

■ MAXは平成のEVEを目指せばいいんじゃないかな。


 「安室独立騒動でどうするどうなる2014年、ライジング」ネタ第二弾。裏・安室奈美恵といってもいいMAX、今年のシングル「情熱のZUMBA」をば紹介――って、なんでこれを9月にリリースするかね。9月の海はクラゲの海だっつうの。バカッ。昨年、新宿二丁目を中心に絶大な支持といちびりを受けたシングル「Tacata'」の第二弾ってところなんだろうけれども、完全に時期を逸している。
 こういうシングルはさ、遅くても5月くらいにリリースして、梅雨明け前からイオンモールの噴水広場とかでドブ板プロモーションしまくって、夏休み前にはシングル込みの夏向けコンピレーションなんかも出しちゃってさ、夏祭りの盆踊り会場にMAX乱入!?みたいな企画とかもしちゃって(――先輩のダンシングヒーロー音頭のお株を奪い取るくらいの気迫を出しちゃっていいよ)、んで、千葉や茨城の海の家でうんざりするくらい流れに流れまくって「もういいよ」と嫌気がさすところまでやってはじめてリリースした意味があるってものでしょうがっ。
 多分来年も夏前後にこれ系の第三弾企画やると思うけれども、次は絶対に初夏リリースで、7月には新曲に合わせて「情熱のZUMBA」「Tacata'」「Festa」「Ride on Time」あたりも含めた夏向けラテンベストもリリースするようにッ。――って、プロモーションのダメ出しはいいとしておいて。
 M-1に関しては今回はぶっちゃけ「こなし」かな。「タカァタ」に比べて「ズンバズンバズバ」はインパクトはちょい減。ただ何度も同じ所をこすり続けていくのがこういう路線では大切なので、折れずに来年以降も是非続けていただきたいな。MAXの面白ヘンテコシングル、間違っていないよ。こういう安っぽくて頭が悪そうな、よくいえば敷居の低いM-1で一見さんに興味持ってもらって、ふとカップリングまでちゃんと聞いた時に「おおっ」と思わせるようになるといいよね。お安いノベルティーシンガーに見えて意外と実力派、ていう。今回のM-3「BOOM! BOOM! BOOM!」はそういう意味でもいい線いってるよ。
 ワタシ的には「CAT'S EYE」のカップリングだった「WONDER WOMAN returns」が表が完全に霞むレベルでムッチャかっこよかったので(――聞いてて、あ、彼女ら確かに安室とおんなじグループだったんだなって感じることができたっつうか、安室奈美恵と音楽DNA的に全くおんなじだった、あの曲は)、あの路線、どうでしょ。コーラスワークもスリリングで決まってたし。
 表と裏をこの路線で突き進みつつ、もっとコーラスワークを磨き上げればMAXは平成のEVEになれるのではと私は思うな(――Eveってさ、超絶歌うまコーラストリオなのに、オリジナル楽曲がずっこけるレベルでひどいのが結構あるんだよね、オジンギャルと連呼しまくってるタイトルからしてひどい「センチメンタルGALじゃ〜に〜」とかさ。カバーメドレーも激安な作りだし)。一回試しにカップリングとかでEVEの代表曲「恋はパッション」(――これ久々に聞いてみたらAメロが完全に「Keep Me Hangin' On」でビビった)歌ってみ、沖縄繋がりだけではない何か似たものを感じると思うから。

荻野目洋子 「Dear Pop Singer」

ディア・ポップシンガー

ディア・ポップシンガー

■ 2014年版「ノンストッパー」

 安室奈美恵が所属事務所との契約でもめているらしい。ライジング・プロ(ヴィジョンファクトリー)からの独立を画策しているとも噂されている――というこのタイミングでライジングの創業アイドル荻野目洋子が久々にニューアルバムを出すなんて話を聞くと、どうも裏事情を勘ぐってしまうというか、ストライキで管理職が久々に現場に狩り出されたといったところなのかしらん、と余計なことまで考えてしまうが、内容はいい。
 30周年記念ということで、自身のヒット曲のセルフカバーを中心としながらカバーやオリジナル新曲も、という再始動にあたって極めて無難な構成といえるが、徹底的にダンサブルなサウンドで統一しているのがいい。同窓会系アルバムでよくあるアコースティック・バージョンの「逃げ」は一切打っていない。かつての自分が築き上げたものに対してきちんと今の自分で勝負している。
 むろん歌唱力も落ちていない。厳しく言えば10〜20代前半のボーカルと比べると声のアタックの強さはさすがに多少マイルドになった感はあるが、今でも十分戦える。カバーも「ホット・スタッフ」「Lovin' You Baby」と間違いがない。
 変にコンセプチュアルになることなく、カバーもシングルも関係なく、ただひたすら踊れる曲をドサドサ詰め込みましたというわかりやすい作りは、かつての名盤「ノンストッパー」(87年のオリコン年間チャート一位作品)を想起させる。これこそ80年代のビート系アイドルの代表選手・荻野目洋子の世界であり、その後安室奈美恵、MAX、SPEEDと90年代に花開いたライジング系アイドルポップの本質であり、源流。
 2001年に結婚以降、パートタイム的にポチポチ歌ってはいたもののボサノバやらフォークやらと「それ、違うだろ」な作品ばかりだったオギノメがようやっと産休終えて戻ってきた。「荻野目洋子」が好きな方は是非な一枚。次は全曲オリジナルのアルバムが聞きたいな。

「僕らの音楽」/小室哲哉特集から見えた妄想的華原朋美の将来

 見た? 見たよね? 2014.04.18放送「僕らの音楽」/小室哲哉特集。往年の小室ファミリーの数名が小室哲哉とともに出演し、コラボしたんだけれども、そのメンツが、TRFTMN鈴木亜美、そして「華原朋美」。フツーに、自然に、さりげなく、華原朋美がそこにいたのですよ。え、わたし小室ファミリーですよ!? なにか。みたいな。
 んでもって小室のピアノで「恋しさとせつなさと心強さと」歌っちゃうっていう。昔話とか司会者相手に語っちゃうっていう。去年のFNS歌謡祭のはりつめた雰囲気のふたりはどこへやら。あの時はさ、ホント、和解の共演という形ではあったものの、小室哲哉が内心「勘弁してくれ」とばかりに及び腰というか、朋ちゃんにビビりまくリ、拒否りまくっているのが画面の向こうから、ひしひしと伝わっていたわけだけれども、今がこれですよ。
 フツーに華原朋美小室哲哉が馴染んでるのですね。前回が100パーセントのドン引きであったなら、今回は30パーセントくらいの軽い引きというか、根本的な部分で受け入れ始めてるよ、哲ちゃん。1996年からいきなりワープして、この映像見せられたら、「あ、二人はまだ続いてたのね。むしろ昔のラブラブバカップルぶりと比べるとお互いいい感じで萎れておしどり夫婦っぽいよ」とか思っちゃいかねない。番組内で撮影した二人のツーショット写真とかさ、ほんといい顔しててさ、しっとり馴染んで表情すらも似てきちゃってるまさに夫婦なふたり。夫婦じゃないんだけども。
 「自分のカバーアルバムの宣伝で出演」というエクスキューズを用いながらも、着実に、ふたたび小室哲哉に食い込んでいってる華原朋美。そしてそれを受け入れつつある(ように見える)小室哲哉
 朋ちゃん恐ろしい子。思わず姫川亜弓しちゃう、ホント。
 こりゃなし崩し的に小室哲哉朋ちゃん新曲もありうるな、てのはもちろん、朋ちゃんにとっての小室哲哉ってのは、音楽的成功とか芸能界的成功という部分のみで紐付けされているなんてちゃちな存在ではなく、自分の幸福そのものなんだろうな、とも思ったり。朋ちゃんの心のなかでは男女の仲すらも超えつつあるというか。
 例えばさ、小室哲哉の家で、KEIKOの介護を、朋ちゃんがしてたとしても、なんら不思議はないっていうか。いや、やりかねんよ、朋ちゃん。「歌お休みしてた時に兄の紹介でこういう事もやってたのでへっちゃらです」とかなんとか言ってさ。
 ここで安いレディコミや少女漫画なら笑顔で毒入り介護食を――てな展開だけれども、そういう鬼婆感は朋ちゃんにはまるでなく、むしろ10年20年後、小室哲哉夫婦の介護を朋ちゃんがしてもおかしくない。てか、わたしにはそんな絵が見えたよ。無害なストーカーというか、良く言えば守護天使みたいなノリで、いつまでもどこまでも小室哲哉の周りにいる朋ちゃん、ていう。
 シンガーとして芸能人としてというよりも、小室哲哉の隣にいる人として、の幸せを得るために順調に泥沼を突き進む朋ちゃんなのでした。
 略奪は無理として、小室夫妻の赦す範囲内で「近所に暮らしてる妙におせっかいな親戚のおばちゃん」のラインに落ち着ければ、いいよね。それでもなお茨道だけれども。

中森明菜、コンセプト別セレクションアルバム (妄想案)

前回のエントリーからの続き。ってわけでやってみた。
ワーナーに権利が帰属してある中森明菜の1982-1991の音源で、収録時間はCD1枚分ギリギリまで収録、知名度のあるシングル曲もほどほどに混ぜる、ってなノリで、ひとつ。

● Great Journey - AKINA Ethnic BEST -
北ウイング/赤い鳥逃げた/ロンリー・ジャーニー/BABYLON/SAND BEIGE/椿姫ジュリアーナ/TANGO NOIR/ミロンギータ/最後のカルメン/処女伝説/AL-MAUJ/ジプシークイーン/アサイラム/サザン・ウインド/メランコリー・フェスタ/CARIBBEAN/ミ・アモーレ/ドラマチック・エアポート

今年1月に出た「旅ベスト」わたしならこうするかな。異国情緒ただようかなってもののみで構成。「旅ベスト」と同じく「北ウイング」と「ドラマチックエアポート」で全体を挟む構成にあえてしてみたけれども(あのコンピ、それがやりたかっただけだろうし)、外してもいいかな。サウンド的に違う感じするし。






● TEENAGE RESISTANCE - AKINA TSUPPARI BEST -
少女A/キャンセル/条件反射/1/2の神話/X3(バイバイ)・ララバイ/ヨコハマ・A・KU・MA/ダウンタウン・すと〜り〜/思春期/あいつはジョーク/さよならね/少しだけスキャンダル/ルネサンス/禁区/EASY/シャットアウト/これからNaturally/十戒/Blue Misty Rain/October Storm/BLUE BAY STORY/飾りじゃないのよ涙は

井上陽水高中正義細野晴臣、大澤誉志幸、来生たかお売野雅勇伊達歩(伊集院静)……。豪華作家陣によって彩られた少女・中森明菜の「戦い(レジスタンス)」の記録。》

帯コピーまで捏造してみた。これをなぜ企画しないのかわからない。絶対需要あるはず。いわゆるツッパリソングの系統にある曲をまとめたコンピレーション。明菜が10代の頃に発表したもののみで縛って構成。


● Girl - Teenage Ballad BEST -
スローモーション/あなたのポートレート/イマージュの翳り/セカンド・ラブ/温り/白い迷い/カタストロフィの雨傘/雨のレクイエム/リフレイン/夏はざま/予感/バレリーナ/トワイライト/目を閉じて小旅行/SO LONG/ムーンライトレター/APRIL STARS


AKINA TSUPPARI BEST」と対になるバラードベスト。こちらも10代編ということで。泣きのバラードとスローながらも明るい印象の曲とのバランスが難しいね。「ドライブ」が入らなった。いい場所が見つからなかったよ。





● Woman - Twenties Ballad BEST -
ありふれた風景/AGAIN/SOLITUDE/OH NO,OH YES!/Fin/駅/約束/赤のエナメル/恋路/難破船/I MISSED "THE SHOCK"/Blue on Pink/LIAR/水に挿した花/乱火/雨が降ってた…/忘れて…

一方こちらは20代のバラードベスト。この時期の明菜って、意外とズブスブの泣きのバラードってそんなに多くない。結果、ミディアムテンポのグルーミーなアーバンポップがメインになってしまったけれども、あえてわかりやすくタイトルはバラード・ベストで押し通す。いい加減ちょっと無理が生じてきたかな。





● Fire Water - AKINA Sensual BEST -
ノンフィクション・エクスタシー/DESIRE/TATTOO/BLONDE/LA BOHEME/モナリザ清教徒/危ないMon Amor/二人静/薔薇一夜/小悪魔/BILITIS/CRYSTAL HEAVEN/FIRE STARTER/So Mad/夢のふち/Jive

よしこれもやっちゃえ。上記四枚で漏れたシングル曲を中心になんとか一枚の形に。ロックベストで行こうと思ったけれども、意外とそれ風のものの弾が揃わなかったので、テーマはセンシュアル=肉感的・官能的、と無理くりにまとめてみた。



 ――以上5枚のテーマ別ベスト。お気づきの方いるやもしれませんが、アルバム「不思議」「Cross My Palm」からは一曲も入れてません。あれは無理。異色すぎてどこにも入れられないよ。むしろ「不思議」は下手にこういうところに入れるより、ボーカル前に置き直したリミックスでまるまる一枚出し直して欲しいぞ、と。あと、シングルは全てなんとかつめたけれども(※ あ、「DEAR FRIEND」抜けてた。ま、いっか)「FAREWELL」「STAR PILOT」「瑠璃色の夜へ」「恋人のいる時間」などの佳曲が抜けてたりしてます。駄目じゃん。
 あと偽ジャケットはシングル・アルバム用のフォトセッションで、表ジャケに使わなかったものから流用。ワーナーの倉庫のどっかに絶対あるはず。明菜のいい写真、ジャケ写以外にもいっぱいあるんだから、今度は眠ってるものを探して使ってよ、という意味合いを込めてあえて作ってみた。
 とはいえ、思いつきなのに、妙に時間かかってしまったぞ。しかも本家をやっつけと罵りながら、だんだん自分の選曲もやっつけ感が出てきたりして。うん……まあ、コンピレーション作りって簡単そうに見えて、けっこう大変なのかもね……。と、最後は妙にディスった相手に共感なんかしたりして。とにかく頑張っていいもの作ってお願い、ファンは期待してるんだから。とエール送って今回はおしまい。

わたしはワーナーの中森明菜再発企画に一言物申したい。

 最近、中森明菜の復帰コンサートの夢を見た。
 単独コンサートではなくって何かのイベントのシークレットゲストってな感じで、サプライズでいきなり明菜様が舞台に登場して新曲を歌唱するっていう。会場は横浜アリーナ幕張メッセあたりの大箱で、「おおっ今度の新曲こんな感じか。攻めてるな明菜様」と、驚いたところで夢から醒めた。
 目が覚めて、我ながら自分のキモさに血が引いた。どんだけ明菜待ちわびてるねん。

 ――ま、でも、大なり小なり明菜の復活を待ちわびていると思うのですよ、ファンならば。何か動きがあったならば嬉しいし期待したいと思うはずですよ、ファンならば。 明菜がもう一度舞台に立ちたいと思った時に、うまく軌道に乗れるように色々と周りがサポートしてくれるようにと、祈っているわけですよ、ファンならば。
 だからね、過去の作品のリイシューとか、コンピレーションとかも、基本ウェルカムでいたいわけですよ。そこからファンになる人もいるやもしれない。実店舗にアイテムを置いてもらう、それだけでもプロモーションなわけですから。シングルコレクションという縛りを外すと、ファンの間では名曲とうたわれながらも埋もれがちな曲なんかもうまく組み込めるしね。
 それは明菜に限らずね、キャリアの長いシンガーならばみんなそう思いますですよ。
 だが、ねぇ、ワーナーさん。1982年から1991年まで中森明菜が所属していた旧ワーナー・パイオニア改め現在ワーナーミュージック・ジャパンさん。さすがにここ数年の明菜の再発関連アイテム、やっつけ過ぎやしませんかね。
 年頭に発売した「ドラマティック・エアポート-AKINA TRAVEL SELECTION-」で呆れたそれがさめやらぬ間に今度は「Burning Love 〜情熱の夏ベスト〜」って。松田聖子の次はケツメイシ浜崎あゆみの二番煎じ企画ですかい。いや、さー、元々再発モノに関しては、明菜に限らず、他の大手、例えばソニー・ビクター・キャニオンなんかと、比べると格段に企画力が弱いのがワーナーだってのは知ってるけどさ。ないよ。ない。
 聖子とかユーミンとかサザンとかチューブとか、アイドル勢でも早見優石川秀美ミポリンあたりなら、わかるよ、夏ベスト。
 よりによって明菜は、ない。そもそも明菜自ら「いかにも夏向けっぽい曲が少ない」言うてますやん。中島みゆきの夏ベストとか、谷山浩子の夏ベストとか、鬼束ちひろの夏ベストとか、それレベルに、ない。曲の棚卸ししてみたらそんなのすぐわかるやないですかい。なんかこー、安易な二番煎じ企画を立てないと死んでしまう病にでもかかっているのか、ワーナーさんは。
 リミックスベスト「Love Songs & Pop Songs」以降、これら一連の作品の企画/製作者って、たぶん同じなんだろうけれども、そもそもこれら、選曲も曲順もイチイチ雑だし。だいたい明菜は80年代においても声質や歌唱法はもとよりオケの質感すらもアルバムごとにガンガン変わるので安易に曲順つぎはぎするとむちゃくちゃ聞き心地が悪くなるって、こんなの明菜ファンならば、常識レベルで知ってることだっての。てか、明菜まともに聞いてないっしょ、聞く気もないでしょ、テキトーに仕事してるでしょ。と。
 ジャケットにしたって、なんすかあれ、シングル盤の画像データを引っ張ってきてフォトショかなんかで文字ちょいちょいって消してって。わしでもできるわ、こんなん。せめて、当時ジャケット用に撮影したものの別テイク持ってくるとか、なんかあるでしょ(以前のボックス「Century of Akina」にいっぱい収録してたやん。ネガなくしたんかい)。んで、それが作品にあっているならまだしも、むっちゃ似合ってないし。
 例えばだよ、この今度出る夏ベストにしてもこんなジャケットのほうがなんぼかいいと思うんですがね。

 (←10分で作った偽ジャケット画像)
 もうね、わたしは釈然としない。しないんですよっ、ほんっとーにっ。
 ――と、ぷんすかしていたら。「だったら自分でセレクション・ベスト案だしてみたらいいじゃない」と幻聴が聞こえたので、ちょっとやってみる(多分明日につづく)。

佐藤隆 「青の時代」

青の時代

青の時代

 13.01.09発売。「石の枕」に続いて矢継ぎ早に発表。91年4月19日にVHSで発売されたライブビデオ「青の時代」のライブCD盤。これ、密かに待ってたっ。ライブビデオどっこにも見当たらなくって入手できなかったからさ。ビデオで収録を見合わせとなった「八月のメモワール」も入っとります。
 収録は90年12月26日、東京・池袋サンシャイン劇場。アレンジは重久義明。弦とピアノをベースにしたクラシカル・ヨーロピアンなサウンドメイクで、以前に発表した「アンプラグド・ライブ」の兄弟的作品と言っていいかな。こちらのほうが選曲がいわゆるベストセレクション的。代表曲がズラリと並んでおります。有名ドコロでは「マイ・クラシック」と「北京で朝食を」がないくらいかな。
 「石の枕」を完成させてから、ふっとこのアルバムの制作を思いついたそうで、やっぱり、ビートリーな佐藤隆もいいけれどもヨーロピアンな佐藤隆もいいよね、と、そういうことなのだろう。この行ったり来たりのバランスが彼の曲作りのベースなんだろうな。
 この異国情緒路線に関しては、ぶっちゃけ彼の独壇場と言っていいわけで、女性では久保田早紀、男性では佐藤隆、80年代のSSWでこの両者にかなう人いないんじゃなかろうか、っていうね。歌謡曲であるという前提を失うことなくそれでいて本格的に行くとなればどこまでもズブズブとのめり込むことができるのが、この二人の強みなのです。
 このライブ盤は、スタジオ録音盤よりも音はシンプルでありながらも、その世界はより深くより濃い。音の本質、核の部分にぐいぐいと迫っている。クラシックやジャズの名盤にも近い、時代を超えたエバーグリーンな一枚といってもいい。「アンプラグド・ライブ」にグッと来たなら、是非モノ。佐藤隆の事よくく知らないなという人への入門編としてもいいんじゃないかな。オススメ。

柏原芳恵 「アンコール2」

アンコール2

アンコール2

 10.05.26発売。男性歌手カバーの第二弾。
 これ、デモ音源だろ。売り物にしていいサウンドちゃう。オケがひどい。ざっくりで言えばカラオケボックスレベル、あるいは15年位前の個人サイトで流れるMIDIレベル。今日日、ニコ動にいる素人プロデューサーすら、DTMでもっと分厚く凝った聞かせるサウンド作るわ。インディーメーカーとはいえ程がある。レコードアーティストとしての矜持があるなら、これで吹きこむというのは、ない。
 なのに、切れるでもふて腐れるでも心を遮断するでもなく、それなりに心をこめて歌う柏原芳恵。んでもって結構うまいんだよ、これが。歌唱に関しては完全に水準以上いってる。
 とはいえそこに必死さ、凄絶さ、気迫というのは漂わない。フツーならばこんな企画、零落れても歌にしがみつくしかない元アイドルの四十女の憐れさや哀しみのようなものが立ち上がろうものですよ。でもないのよ、それすらも。
 柏原芳恵がなにを考えているのか、全く見えない。技量ある歌い手なのに、こんなしょぼいサウンドでやっつけカバーアルバムやらされて、決していいことではあるまいに、それが悲しいのか嬉しいのか、その単純なことが、聞いていてもまったく分からないのだ。エロティックな写真集やイメージビデオの仕事をこなすのと彼女のテンションはほとんどおんなじ。正体の見えない怪物性という面では、同期の松田聖子と同レベルにあるんじゃなかろうか。悪意ある都市伝説が彼女の周りにはびこって消えないのは、彼女のこの怪物性に起因しているんだろう。
 濡れ濡れとして隠微な演歌・歌謡曲をほとんど本能で歌いこなすという、アイドル時代から変わらぬいつもの柏原芳恵ではあるが、周囲のやる気のなさ、志という点ではダントツに低い残念な一枚。30周年でこれかよ……。ノーモア・アンコール。