郷ひろみ 「スーパードライブ」 (79年12月発表)

ニューヨーク録音。79-80年はジュディオング、久保田早紀と海外旅情戦略を敷いていたCBSソニー酒井班。
ひろみにはアメリカ・ニューヨークをあてがう。これがドンハマり。ターニングポイントとなった一枚であり、アルバム曲でありながらベスト盤収録曲やライブ披露の多い曲が目立つ。ニューヨークを舞台とした歌謡アルバムとしては、中森明菜の「CRIMSON」と双璧だ。
以後、ひろみはプライベートでも、結婚だ離婚だと何かあるたびにNYに足を運ぶことになる。

サウンドはディスコ路線、全編曲が萩田光雄で、作曲も数曲も担当しており、サウンドプロデューサー的ポジションだ。萩田のサウンドメイクの幅広さに舌を巻く作品でもある。他作曲は、林哲司、菅原進、芳野藤丸、網倉一也。演奏は当地の24丁目バンド。作詞は竜真知子と岡田富美子で分担し、これは女の描く男のハードボイルドといったところだろうか。
アルバムとしては、同じく酒井班の山口百恵のロンドン録音「ゴールデンフライト」、ロス録音「L.A. Blue」と同工だが、どんなサウンドあてがおうと内省的でしっとりとあやしい東洋の歌謡の世界に深々とおちていく百恵に対して、ひろみはあっけらかんと洋楽化してしまう。
以降のひろみのアルバム「Magic」「PLASTIC GENERATION」「アスファルトヒーロー」はこのアルバムの延長、4部作といってもいいひろみ和製洋楽化路線の名盤群だ。

【刺さる一曲】
「Wanna be true」……冒頭「乾いた雨が落ちてきた」。この掴みで想像力が一気に広がる。乾いた雨って何? 歌は都会の青年の孤独と焦燥の世界。「ひとり暮らしはまるでガム/すっかり飽きてしまったよ」吐き捨てるように歌うひろみ。つのる焦燥はサビの「Wanna be true」の咆哮で爆発する。スリリング。作詞・岡田富美子、作編曲・萩田光雄
「哀愁ニューヨーク」……ひろみ版「勝手にしやがれ」。恋人との別れの朝。女はシャワーを浴び、朝食を摂り、キスひとつでさっそうと部屋を出て行く。もう二度とここには戻らない。男は残された手編みのセーターに苦笑する。前しか見ない女と後ろ向きの男の対比。「二人の暮らしはイカしたアドリブ/気づいた時にすべてが終わっていた」男のセンチメンタルがしみったれないのはひろみの声の力による所が大きい。作詞・岡田富美子、作曲・菅原進、編曲・萩田光雄
「LONELY NIGHT」……アルバムを象徴するラストナンバー。痩せた月、霧雨、アスファルトを叩く靴音、見慣れた寂しい夜更けの街、淋しくなんかないと強がる女とカサノバ気取る男。孤独を慰めあうこともできず、夜はただ更けていく。歌と対峙するようなスリリングなストリングスがまさに萩田節。作詞・竜真知子、作編曲・萩田光雄