穂村弘「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」

手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)

手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)

 これ凄い。「萌え短歌」だわ。歌人穂村弘のもとに妹・ゆゆと黒ウサギ・にんにを連れてあらわれた謎の少女・まみ。彼女は毎日、午前と午後に一通ずつ手紙をおくってくる。それは不可思議な短歌の態をなしていた――という設定の短歌集。中身はこんなの。


「ウは宇宙船のウ」から静かに顔をあげて、まみ、はらぺこあおむし

高熱に魘されているゆゆのヨーグルトに手をつけました、ゆるして。

美しい指輪は足の親指にぴったりでした、報告おわり。

ママレモンで兎の檻を洗ってる、ふわあふ、ふわあふ、あくびになるわ

「十二階かんむり売り場でございます」月明かりの屋上に出る

なめとって応急処置しておこう、うなづきあって舌を準備す

なんだよぜんぜん食えるとこねえじゃねぇかと蟹に怒る

ほむほむの心の中のものたちによろしく。チャオチャオ。まみ(紅しゃけ)


 数百首の歌から立ち上がってくる架空の少女《手紙魔まみ》。その姿を、読者のそれぞれがふわわわとイメージして、やーん、かわうい、萌えるぅぅ、となる、そんな仕組みの短歌集といっていいかと。キャラクター小説ならぬキャラクター短歌だね。イメージとしては「綿の国星」のチビ猫の系譜のロリータ不思議っ子に間違いないね。
 装丁のおしゃれ感からいって、サブカル狙いっぽいけれども、ロリロリなアニメ絵を挿絵にしてオタク狙いにしたほうがもっと受けると思う。ラノベの美少女では満足できなくなったオタクのための上級者向け作品。穂村弘の鋭利な言葉と読者のイマジネーションのコラボによる、淡いピンクの萌え短歌。他の作品も読んでみよっと。