研ナオコ 「DEEP」

 ヒットシングル「夏ざかりほの字組」を収録した85年のオリジナルアルバム。
 研ナオコ、歌、上手いっっ。歌い上げまくって聞き手を圧倒するような上手さでなく、気づくと、そっと聞き手に寄り添っているような、小憎らしい上手さのある歌手。歌との、聞き手との距離のとり方が抜群に上手い歌手だと思う。
 「夏ざかり〜」の阿久+筒美コンビに始まり、売野+後藤コンビの「ヴェネツィアの情事」売野+吉田拓郎の「六本木レイン」、松本+細野コンビの「日本人形」、ユーミン作の「帰愁」、さだまさし作「デ・ジャブ(予知夢)」、五輪真弓作「ジェラシー」と、超豪華作家陣による競作といったアルバムで、こうなると勢い散漫になりがちなものだけれども、しかし、これが上手くまとまっているんだよな。
 これはまさしく、彼女の、歌の距離感の取りかたの天性の上手さによる成功といっていいんじゃないかな。すっと、歌の世界に憑依するんだよね。で、歌が終わると、これまたさらっとその世界から抜けて、テレビでお馴染みの「研ナオコ」になっている。手ごわい歌手だなぁ。
 キャリアのわりにきちっとしたアルバムらしいアルバムが少ない彼女だけれども、がっつりアルバムで聞きたい――世界観を構築できる歌手だと思う。