甘野有記 「楼閣の麗人」

 「っていうか、美少女(のような美少年)受のやおいって、そんなツボでないかも。萌えたの「アーシアン」のちはやちゃんと「トラブルフィッシュ」の潮くらいだしさ」
 と、年末にhisuiさんにふぢかましたまこりんさんが新年最初に読んだやおいがコレ――って思いっきり「美少女受」やないかぁっっっ。
 時は19世紀末、場所は英国。変人貴族と名高いリチャード・バーンシュタイン伯爵は、ある日、阿片窟でまだ幼い東洋系の美少年、李悠を拾い、彼を召使として雇いあげる。
 て、ストーリーのオープニングを説明するとじとっとしたお話かな、と思うがさにあらず、本編は気のいい変人リチャードさんと健気で不器用で勝気な李悠ちゃんのほのぼのらぶいちゃ的日常が延々と描写、リチャードと李悠は、主人と執事見習の関係だけれども、時に親子であり、時に恋人でもあるよ? という、それ系です。
 で、問題の李悠ちゃんは、素で少女と間違えられる美貌で、女装もします、てかさせられます、チュールをつけてデコルテをばっちり出したドレスだって着せられます、そしたらやっぱり強姦されそうになります、もちろんご主人様がすんでのところで助けにきてもくれます、っていう。
 もうね、お約束だってわかっている。これ、李悠ちゃん性別女性にして、メイドにしちゃえばそのまんま大きなお兄さんがちんちんおぎおぎするような話だって、よぉーーーっくわかっているっっ。でも、黒髪ストレートのロンゲで健気で一途で美少女な李悠ちゃんがかわういんだもんっっ。ポニテが似合い過ぎてるんだもんっっ。
 hisui、ごめんご。やっぱ、こういうの、ツボだったわ。

 それにしてもこの作品、ヨーロッパの貴族社会という舞台に、キャンディーキャンディーやマイフェアレディーを髣髴とさせる古典的なストーリーという設定が80年代ど真ん中なのもさることながら、絵柄も凄い。これ初出は80年代前半ですかといいたくなるほど。
 ものすごい、意地のかけあみや点描、みちみちっとしたコマ割の細かさが、どうみたって、80年代。いまやフツーにトーンやらコピーやらCGでやるところを全篇手描きで突っ走る人がまさかいたとは……。あきれるほどにみっちり書き込んでます。
 あとあと、やおい描写も80年代的。ふたりは「できてる」状態だけれども、セックスそのものは決して直接的に描写せず、あくまで表現の核は日常の瑣末な事件から漂ってくるふたりのらぶらぶ具合、という。これは80年代の「LaLa」か「グレープフルーツ」って感じかな。もはや「June」ではない。「June」に入れるには、エロ指数が低すぎるという、そんな非常に奥ゆかしい作品です。
 これが21世紀に新作として読めるのは、ある意味やおい界の奇跡かも。甘野有記さんには、ぜひともこれからも80年代少女漫画でいていただきたいです。他の作品も読もっと。