面白うてやがて悲しき人生相談

 多くの男性は女性の相談事を真面目に聞かない。
 なぜなら、それは相談ではないからだ。
 それでもあえてその相談にのってみる、と、大抵以下のようになってしまう。

 07年2月8日放送「テレフォン人生相談」の模様。

 パーソナリティ・加藤諦三早稲田大学教授)
 回答者・高中正彦(弁護士)
 相談者・65歳女性(元教師)

 相談内容  「退職金で購入したマンションに占拠しているひきこもりの長男(30歳)を追い出すにはどうしたらよいのでしょうか」

 前半 http://www.youtube.com/watch?v=DisAmLq8NTI
 後半 http://www.youtube.com/watch?v=ho-b_1HH1JM

 谷山浩子の「相談相手のカシコイ選び方」という少女向けのエッセイで、こんなことを言っていた。
 曰く、一般的に相談相手は自分よりも大人で、経験豊かで、口が堅い、というのがよい相談相手だといわれているが、必ずしもそうではない、と。
 TPOにあわせて、相談相手も賢く選ばないと心の満足が得られない、と。
 いい気分になりたいだけの時は、ふだんからたいしたことないことでもいちいち「へぇーすごーーい、ほんとにぃ」などと無邪気に感動する子をマークしておいて、彼女の感動のアイヅチをBGMに心ゆくまでしゃべりましょう。口が軽い子ならみんなにいふらしてもくれます。
 自信を失ってイイコイイコして欲しい時に、正論を吐く人に相談してはいけません。あなたの長所を積極的、かつ巧妙に褒めちぎってくれる人にべたべたに誉めてもらいましょう。
 自分で決められないから他人に決めて欲しい時は、相談しないで自分で決めましょう。どうせ相談しても決断がつかないものです。後悔しないためにも目をつぶって崖から飛び降りるつもりで自分で決めるのが一番です。と。

 女性の投げかける相談。その多くが本気で問題解決を自ら願い、そのためのアドバイスを乞うているわけではなく、自慢、慰め、依頼心、このみっつのうちのどれかを求めているだけだったりする。
 そもそも、相談するほうが、問題解決する気など、さらさらないのだ。
 このひきこもり息子を抱えた老母の相談も、おそらくそのひとつ。
 だまっておとなしくお話をご拝聴して、「39年教師として勤めあげられた。そのご努力、敬服いたします」とかなんとか褒め上げ、「それでもご子息がひきこもりになられた。心労いかばかりかと思うと心が痛みます……」などとしみじみ、慰め、「マンションから追い出すなどと性急なことをお考えにならずに、ゆっくりご子息とお話になれば、あなたほどの方ですから、いつか彼も心を開いてくれるに違いないですよ」と根拠レスにポジティブ、でもその実ただの現状維持、の方向でまとめれば、相手は相当いい気分になってお帰りあそばすことてきめんだと思います。もちろんなぁーんの、問題解決にはならんけどね。
 でも、それでいいのだ。だって、それが相手の求めていることなんだから。 
 わたしは悪くない。わたしはこんなに頑張った。なのにだれも認めてくれない。誰もわたしを愛してくれない。そういっているだけだもの。
 つまり、女性の相談は、イコール、甘えたいなのだ。

 女性は情に任せて甘えきるつもりで相談したのに、しかし、相談といわれると男性の多くは、問題解決ためにと、冷静かつ客観的に状況を判断し――つまり情をできうる限り断ち切って、アドバイスしようとする。
 情のつながりでべたべたしたいのに、いきなりぶった切られた女性は、
 「なんで相談したのに怒るの ?」
 と、驚き、怒る。
 男性はそれがわからない。男性はべつに怒っているわけではない。ただ、できるだけバイアスのかからない視点で物事を判断しようとしているだけ。
 「え、だって相談でしょ。解決したいんでしょ。そのためには冷静に状況を見なくっちゃ」
 男と女の間にやはり深くて暗い河があるようで――。
 つまりは、世の男性諸君は、女性の相談は、のらないのが一番ということ。
 真面目に応対した分だけ馬鹿を見ます。