早見優 「Yu’s BEST」

 82年組ではひそかに中森明菜に次ぐ歌唱力を有する早見優。そんな彼女の89年発売の二枚組ベスト。デビューから88年「Yesterday Dreamer」までの全シングルがコンパイルされている。
 改めて全篇を聞きなおすとアイドルらしい魅力にあふれている時期が驚くほど短いことに驚かされる。「夏色のナンシー」〜「誘惑光線・クラッ」までの一年弱しかないんじゃないかな。アイドルポップスの範疇なのは。
 「Me☆セーラーマン」(ミスター・セーラーマン、と読む)なんてピンクレディ顔負けのお子様向けソングをリリースして以降は、一気にアーティスト方向へシフト。「PASSION」以降は、フツーにガールズロック・ガールズポップとして優秀です。うまい。
 声質といい、ビジュアルといい、パーソナリティーといい、全てにおいて乾いているところがこの人の美点でもあり、欠点。世間がアイドルに求める部分ってのを彼女はあんまり持ち合わせていないんだよね。アイドルって、本質的にもっと情緒的で、ベタっとしているものだもの。
 それゆえに「ハートは戻らない」「Get up」のごとき匿名性の強い意味の希薄なユーロビートを歌わせるとベタはまりする。つるっと耳に入って心地いい。
 その後はというと、平成を迎えると同時に明菜・小泉を除く82年組のほぼ全てが歌手廃業をなったものの、レコード会社を移籍して細々とながらも歌手活動を継続。今は松本伊代堀ちえみとともにキューティー・マミーで活動しているが、マミーのパラパラは、「ハートは戻らない」やバニラ・ブルーなど、早見のユーロ路線を継承しているのでは、キューティマミーの鍵は早見が握っているのでは、というのは考えすぎか。
 あ、「ハートは戻らない」の12inchバージョン、これかなり無茶してます。好き。