工藤静香 「My Precious -Shizuka sings songs of Miyuki-」
いつかやってくれと願っていた工藤静香の中島みゆきカバーアルバムがついに登場。喜び勇んで購入。
選曲はわりと公式見解的というか、ヒット曲のずらりと並んだわかりやすい編成。そのなかで認知度低めの曲は80年代後半にまとまるあたり、彼女が一番みゆきを聞いていたのがこの時期なんだろうなぁ。「時代」や「わかれうた」といったみゆきのフォーク時代の曲が一切オミットされているあたりもひとつの特徴。
アレンジは、澤近泰輔、市川淳、坂本昌之、松浦晃久、前嶋康明が担当。
――というわけで、早速聞いてみたけれども……こういう感じかぁ。
まずひと通り聞いて思ったのは、気迫がないな、と。静香から気迫をとったら一体なにが残るんだッ、というくらい気迫でねじ伏せるように歌うの彼女のが最高の魅力だ、とわたしは見ているんだけれども――それが感じられなかった。ボーカルに合わせるように、サウンドも全体的に軽いつくり。
まあ、結婚して母にもなれば、自然と歌手としての姿勢が守りに入るわけで、だから正直言って、せめて10年前、「雪・月・花」リリース時くらいにやっておくべき企画だったのかも、と、ふと思った。
ただ、中島みゆきのトゥーマッチなボーカルに二の足に踏む人にとってはマイルドでいい聞きやすい作品集にはなっているんじゃないかな。
「命の別名」は、わたし的にはオリジナルは過剰でちょっと聞きづらいんだけれども、一方、静香版はするっと耳に入って、それでいて心に残るいい出来になっている。「空と君のあいだに」「銀の龍の背に乗って」あたりも、同じ効果があるかな。みゆきの濃ゆいメッセージソングもちゃんと咀嚼できているのだ。そこは単純にすごい。
ベストトラックは「すずめ」、今の彼女はこういう小さい歌を小さく歌って説得力がある歌手なので、気迫がどうこうとか、本当は言うべきじゃないんだろうな。
今度みゆきカバーをやるときは、「すずめ」のようなフォーク路線のさりげなく悲しい歌でセレクションしたほうがいいかも。んで、静香の歌は聞き手をいてこましてうんぬんとかいう私みたいな人を黙らせていただければ。
あと「Clāvis -鍵-」、やっぱいいっすよね。ボーナストラックで収録されている「激情」「雪・月・花」「Clāvis -鍵-」の3曲はどれもみゆきバージョンよりも激熱で、ぐっと来ます。