コシミハル「覗き窓」

覗き窓

覗き窓

 五年ぶりの新作。
 乙女は誰しも一度は耽美の森の迷い人になる。けれども、彼女らのほとんどが、いつしかその迷路から抜け出し日常へと回帰していく。耽美は少女が大人になるためのちょっとした通過儀礼なのだ。
 久々にコシミハルを聞いた。彼女は、15年前にまだ私が10代だった頃にはじめて聞いた彼女となにひとつ変わらず、耽美の徒であった。
 そのあいだに私は自らが耽美たることはすっかり諦めてしまっていたのに、彼女はそのままであった。その事がとても嬉しく、少しばかり切ない。
 「夜の雫に濡れた唇 薔薇の蕾で包んでおくれ」
 こんな言葉に陶酔できるほどわたしはもう純粋ではない。
 彼女はこれからもずっとそこにいるだろう。そして私はどんどん彼女の場所から遠去かっていくだろう。
 それでもわたしはほんの少しの甘い痛みとともに時折振り返り、彼女を確かめる。変わりゆくことの残酷さと救いをかみ締めながら。