「王の眼」を読み終えた。

王の眼〈第4巻〉

王の眼〈第4巻〉

 エジプト神話をモチーフにしたヒロイックJUNEファンタジー江森備「王の眼」。全四巻。読み終えた――のだけれども、あまり今は言葉が出てこない。何をいっても陳腐な褒め言葉になりそうな気がする。素晴らしい。素晴らしい物語だ。欠けたるところは、なにもない。

 15歳の頃、手塚治虫の「ブッダ」を読んだ。
 「物語」を読んだ、と、はじめてその時おもった。良いことも悪いことも聖なるものも邪悪なるものも、素晴らしさも醜くさも、絶望と希望、祈りと嘆き、すべてがおさまっている。物語には、人として生きる、そのすべてがおさまっている。
 こんなに素晴らしい表現があるのか。心揺さぶられ、畏れと憧れをはじめて感じた。小説や漫画、映画といった表現手段の差異は関係ない。物語を紡ぐというそのこと、――それを見、語ること。真実の眼で、あやまたず、たゆまず、語ること。それに15歳の私はひれふした。
 それに近い感慨が、「王の眼」を読み終えた私をおそった。もし、JUNEという表現方法に嫌悪を持たないのであれば、是非読んで欲しい。
 文章力、物語の構成がすばらしいのはもちろん。そこに描かれている宗教・歴史・民族・文化の咀嚼と理解力の確かさ、なにより人間考察の冷徹さと、それだけにとどまらない懐の深さ。
 JUNEたる物語として「萌えながら」楽しめるのはもちろん、物語から様々な角度で学び、考うることもできる。そこに描かれているものは、ことは、人の世の普遍にある、感情であり、課題であるのだ。
 彼女の前作「天の華・地の風」をはじめ、榊原史保美「風花の舞」「荊の冠」、萩尾望都残酷な神が支配する」など、わたしにとって頂点たる、「永遠のJUNE作品」のなかに、新たにこの「王の眼」が、加わった。
 拍手したい。誰に、というわけれでもないけれども。
 ああ、それにしても、"青ハス"ネフェルトゥムくんの一途っぷりと、セティ様の汲めどもつきぬ魔性っぷりよ。