最近の西炯子

亀の鳴く声 (フラワーコミックス)

亀の鳴く声 (フラワーコミックス)

 西炯子の近作をまとめて読む。「亀の鳴く声」「電波の男よ」「放課後の国」「ひらひらひゅーん」。
 西さん、確実に一ランク上に行ったなぁ。あらゆるJUNE出身の作家で一番面白いが彼女なのかもしれない。
 いま彼女は、描く事で生身をガンガン晒している。
 私が凄いなぁと思うのは、それはかつての彼女自身なのだろうけれども、腐女子のみっともない部分どうしようもない間抜けな部分も赤裸々に描写していること。
 男性経験はおろかまともな友達ひとつ作れやしないくせに(――だからか)、ノートパソコンにはびっしりと自作のエロ小説で埋まっている女子高生・川本(「妄想の国語」)であるとか、
作風を真似るのは得意だが、自分の世界を持っていない漫画家志望のアシスタント(「亀の鳴く声」)であるとか、嫉妬と劣等感から、同じ部活の同級生とその友人のホモ妄想話で盛りあがる子など、
少女漫画ではほとんどタブーといってもいい、ドメスティックな腐女子描写を描きながら、それらは決してイタくない。
ただの自虐ではなく、冷静に客観的に、かつ愛情とほんの少しのジョークをまじえて語っている。その視線は、あくまでやさしいのだ。
 もちろんそのやさしさは女性にだけでなく男性にも向けられる。
好きな女の子の架空の日記をつけている高校男子やら、中三の頃にアマチュア無線で話した女の子をまだ想っている――というかそれくらいしか女性とまともに話したことないダメなリーマンとか。
 そういう不器用でキモい、しかし心根のやさしい愛すべきオタクたちを、うんうんわかるわかる、と、彼女はやさしく抱擁するのだ。
 この愛は、ホンモノだと思う。
 JUNEの魂を持ちながら、それだけではない力強さがある。JUNEだった頃を通り過ぎた作家の一番理想的な深化が、今の彼女じゃないのかな。