志方あきこ「Harmonia」

Harmonia

Harmonia

 同人音楽界の高河ゆん志方あきこのエイベックスに移籍しての二年ぶりのオリジナルアルバム。メジャーリリースでは三作目。全十七曲の大ボリューム。「風」「火」「水」「大地」のそれぞれをテーマとした四楽章構成のアルバムといってもいい作りになっている。
 今回はいつものケルティックサウンドはもちろん、いままでにないポップできらぎらしい曲や、水面をたゆたうような環境音楽めいた曲も収められている。さらに、ノイジーなギターの主張する同人ゲーム「うみねこのなく頃に」テーマを大幅に改変した「うみねこのなく頃に〜煉獄〜」や「埋火」においては、悪魔的な部分すら垣間見える。清澄で壮大でファンタジックで「いい子」なだけではない様々な表情をもっているのがこれまでと違った大きな特徴といっていいだろう。特に力強さが感じられる。
 四つエレンメントを中心としたそれら様々な傾向の楽曲が「調和」というテーマによって大きなうねりを伴いながら連鎖していき、ラスト「調和 〜Harmonia〜」「Harmonia 〜見果てぬ地へ〜」と続く組曲に集約される作りは実に見事といっていい。
 テレビゲームやらヤングアダルト向けコミックやらライトノベルやら、いわゆるオタクナイズドされた「それ風」の無国籍・ファンタジックサウンド(――裾ずるずる引きずった西洋・中近東風衣装のキャラクターたちがパーティー組んでRPGする時のBGMのような、そんな感じのね)から半歩先を出て、コミケのスーパー同人作曲家というポジションにとどまらず、メジャーシーンにおいても確固たる地位を築かんとする彼女の野心に溢れた一枚だ。その挑戦はおおむね成功したといっていいだろう。
 このアルバムでボーカルもサウンドもひとつ器が大きくなったように感じる。セールスもオリコン最高位15位と大幅に伸びているのがその証左といってもいい。
 同人界のカリスマが大きく打って出る時、往々にして旧来のファンから一定の反発があるものだが、それを撥ね退けて更に飛躍する才能を彼女はもっているだろう。次作が楽しみだ。