高橋真梨子 「FANTASIA」

FANTASIA

FANTASIA

 ざっくり言えば高橋真梨子って、「桃色吐息」――エロチックな異国情緒ポップス路線と、「for you」――絶唱系バラード路線、の交互それのみで40年弱やってきたといって過言でないと思う。実際毎年のアルバムもよく言えば安定感ありまくりのいつも同じ金太郎飴アルバム。このあたり歌の上手いアーティストになるととたんに保守的なプロデュースに凝り高まるビクターらしい(ex.岩崎宏美、荻野目洋子、長山洋子)といえばそうなんだけれども、もうちょっといろいろ遊んでもいいじゃないですか、ねぇ。
 んで、そんな彼女のアルバムで一枚選ぶとしたら、コレ。90年発表で、彼女のアルバムではこれが一番エトランゼポップス色が強いんじゃないかな。「桃色吐息」や「はがゆい唇」路線が好きなら、まずこのアルバムかな、と。
 大津あきら鈴木キサブローの「For You」コンビでありながら、「AL-MAUJ」と「DESIRE」を混ぜたようなロック衝動の強い明菜異国路線の「ヒ・ラ・ヒ・ラ淫ら」(――ちなみにこれ、明菜の「AL-MAUJ」の原曲のサビと同じで「AL-MAUJ」のキャッチコピーとも同じね)で最初にガツッと掴んで、以降は真夏の南欧あたりを逍遥するような佇まい。恋の終わりを軽くいなすように粋に歌った「しばらくはRainy Day」、猥雑な港町を舞台に苦さを伴った懐かしみを歌った「ノスタルジア again」(――wink「真夏のトレモロ」の工藤崇作曲)、熾火のようにいまだ火照る恋情をダンサブルに歌い上げた「DANCEはひとり」、PWL系なユーロアレンジが今となってはちょっと懐かしいダンスポップスな「時計仕掛けのエモーション」と、しっとりと大人の恋の遊びを描いた曲が並び好印象。みんな大好き歌い上げ系バラードも「TENDERLY」「遠いProphecy」「Every time I feel Your Heart」と、平均点越えてます。
 バランスがほどよく統一感があって、ヒット曲は一曲もないけれども、オススメな1枚。ま、コレに限らず84年の「桃色吐息」から92年の「はがゆい唇」までの間の彼女って、シングルヒットは一切なかったけれども、アルバムは総じて出来のいいものが多いので、是非。
 このアルバム以外だと87年の「Bluesette」(――「ジョニーへの伝言」とか「5番街のマリーへ」あたりの路線が好きならコレ)、86年の「FOREST」(――久石譲が半分アレンジで、打ち込みサウンドが面白い)あたりもいいかと。質もいいけど、売上も常に五万枚前後の安定した結果を出していたり、と、ちゃっかりアルバムアーティストだったりするんだよね。