坂本龍一&大貫妙子「UTAU」
- アーティスト: 大貫妙子& 坂本龍一
- 出版社/メーカー: commmons
- 発売日: 2010/11/10
- メディア: CD
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00年の「アンサンブル」以来のゴールデンコンビの復活――というアルバムなのだろうけれども、坂本龍一の勢いがいささか足りないように聞こえる。そして、大貫がかなり坂本の世界に歩み寄って表現しているようにも聞こえる。酷いいい方をすれば老いて覇気のなくなった坂本に旧知の大貫が介護補助のように歩調を合わせてつきあってあげている、そんな印象。「何か新しいもの」をこのアルバムに私は感じ取れなかった。
大貫のアコースティックサウンドへの傾倒は87年の「pure acoustic」からはじまり、近年のアルバム「note」「One fine day」 「Boucles d’oreilles」でも一貫した流れがあったわけだけれども、それらのアルバムが枯淡でありながらも、総じて人肌を感じ暖かな印象を聞き手にもたらすのを対照的に、今作は孤独で、冷たく冷えていて、陰鬱だ。色でいうなら、ここ数年の作品が暖色系とするなら今作は寒色系という感じ。
これは明らかに坂本のカラーに合わせてのことなのだろうけれども、そこから大貫がやりたいことが、近年のこれまでの作品と比べてクリアに感じ取れない。一方の、坂本は、ちょっとこれ、まったくのノープランなんじゃないかなー。他のアレンジャーの手による大貫既発表曲のリアレンジとか、もっと闘争心燃やしてもいいものを、なんか無難に置きにいってる感じ。「四季」も「夏色の服」も「風の道」も元アレンジの方がいいぞ、これじゃ。
音楽家として超えてるふたりなのだから、もちろん一定のクオリティーは保持しているのだけれども、スリルがない。なんかこう、ものすごい老後感が漂ってしまっている。未来が感じ取れない。
ミニマルなピアノと女性ボーカルというコンセプトのアルバムを坂本は82年に加藤登紀子「愛は全てを赦す」でトライしているけれども、こちらは気迫に満ちていてスリリングだったのだから、サウンドコンセプトのせいだけではないのだろうな、おそらく。
野蛮で兇暴で矛盾に満ちていてどっか壊れてる、そんな80年代の坂本龍一に戻ることは出来ないのかも知れないけれども、うーん。厳しい。この二人をしてこんな生気のないアルバムが出来てしまったことに驚愕した。80年代を華やかに生きたスノッブな業界人たちにとって、今は厳しい時代なのだろうけれども……。
とはいえ、結果的に、この時期らしい、晩秋のうら寂しさを味わうにはぴったりの作品に仕上がっているわけで、枯れ果てた野面を呆然と眺めながら聞くにはいいアルバムなんじゃないかな、と。