鬼束ちひろ「剣と楓」

剣と楓

剣と楓

 最近のインタビューでのお姿にビビッた――アダムス・ファミリー? ちひろ様。暴行事件やら度重なるメーカー移籍やらすっかり業界のお騒がせ面白キャラ化した観なきにしもあらずだけれども、そんな二年ぶりの新作。
 内容はというと、ちひろ本日も通常営業中といったところか。初のセルフプロデュ―スということでピコピコテクノしたり、リズムを強化してロックしたり、あるいはストリングスがアニメっぽかったり、サウンドの変化はあるものの、上辺の包装を変えただけで、やってることはいつものアレといっていいかと。「月光」以来の中2病の全開路線。そろそろファンがいい大人になって中2病を卒業する頃合なので(――もうブレイクから10年以上経ったしね)、路線変更もあるかなと思ったりもしたけれども、いやいやいや、全力疾走であります。どんどん病こじらせとります。
 はなからボーダーラインぶっきぢっていたCoccoがいつのまにか山下清のごとく《おかしいけど、いい人》として受け入れられてしまったのと対照的に、ちょっと思い込みの強いけどフツーの女の子レベルで受け止められていたのが、どんどん悪化していき、周囲からドン引きされ、幸薄くなっていってるちひろ様、今どちらが面白いかといったら断然彼女でしょ。
 今作は特に、心中願望にも似た、恋のただなかに失墜する感覚が強く覆っているかな。「青い鳥」「琥珀の雪」など、ただならぬマゾヒズムにぐっときます。これは自らを血肉を削っていないとけっして立ち現れないリアルさかと。
 この先、どこまで墜ちていって、どれほど泥水飲むのかはわからないけれども、その実ご本人はそういうのがたまらなく好きなタイプに違いなかろうし、新作を聴く限り、きちっとダメダメな人生歩んでいる分だけ、作品のクオリティーにフィードバックされてる様子なので、これからも頑張ってダメな人生歩んで欲しいな、と。付きあいきれずにうんざりした人から彼女の歌聞かなくなって(――自らの過去を恥じるようにディスりだして)く思うけど、私は追いかけますよ、ええ。エンタ―テイメントという強固な硝子越しに。もちろん、いい作品である限りは、だけれども。
 これからもケータイバキバキ折りまくりつつ、歌頑張って欲しいかな。