中江有里「結婚写真」
- 作者: 中江有里
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/11/05
- メディア: 文庫
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結婚・出産のラストチャンスを迎えた40歳代前半、シングルマザーの母・和歌子、恋を知り染めた中学生の娘・満、ふたりは「友達のような親子」。ある日、母は娘に10歳年下のボーイフレンド・林を紹介するが……、というもの。
うまい。
母の、「女性」として終わりを迎えようとしている自らへの焦燥、娘の、芽吹きゆく「女性」をなかなか受容出来ない生硬さ。それぞれが女性として端境期にあって対照的であり、その佇まいが気まぐれに撮影した二葉の「結婚写真」に象徴され、収斂していく。
テーマとしては「親離れ・子離れ」なのだろう。章ごと交互に母へ娘へと物語の視点と転換させながら、母娘の複雑で微妙な共依存的関係を見事に描写している。
母が子に共犯的関係を強要する欺瞞――しかし、その先に一人で世間に立ち向かっている母の、一個の大人としての弱さや哀しさがほの見えるのがとてもいい。娘の家出を知り混乱する母の、葉裏が翻るように唐突に現れる、それでいて読み手に十二分に了承しうる弱々しさは白眉。
著者はそれを指弾するのではなく、それを認識し肯定し受け入れている。大人の話だな、と、私は感じた。
些細なきっかけでぐずぐずとなし崩し的に壊れる和歌子の淡い再婚の夢も、本当にありがちでリアル。
特に大きなエポックがあるわけでもない、地味で小さな、誰にでもあるような日常の物語だけれども、世の中って言うのはたいてい、陸でも海でもない、境目のはっきりとしない波打ち際のあたりであわあわと進んでいくわけで、その辺の微妙な人の世のグラデーションってものを、丁寧に描いている好作品だと思う。向田邦子の諸作が好きならば(――向田邦子脚本・久世光彦演出・桃井かおり/松田優作主演の「春が来た」を私は想起した)多分気に入るんじゃないかな。