EUROX 「Megatrend」

メガトレンド+2

メガトレンド+2

 87年発表のEUROX唯一のアルバム。プログレッシブなTAO時代、ヨーロッパ進出を前提としたニューロマ全開の第一期EUROX時代、ときて第二期のこの時代のサウンドはざっくりいえばプレV系路線。
 欧州発の耽美系ニューウェーブサウンドが日本に輸入され後、様々なローカライズを経て生まれたのがいわゆる「ヴィジュアル系」なわけだけれども、その改良の過程にある作品といっていいかも。当時の本田恭章土屋昌巳の感じに近い。テンパリ気味な熱唱スタイルの第二期のボーカル・長谷川勇は、アルフィーの高見沢やLUNA SEA河村隆一っぽく聞こえたりもして。少年のようにナイーブで線の細い声質で、それが不安定にゆれながらも絶唱する。時折、せつなそうに息の抜くのが妙に色っぽい。
 ボーカルの失踪という突然のアクシデントによって空中分解し海外進出に挫折した第一期EUROX。常に海外市場に視線を向けていた彼らが新ボーカルを迎え国内向けに全篇日本語詞の作品を作ったのは、その前年に中森明菜の楽曲制作に大きく携わったというのが大きいんだろうな。ってわけで、アルバムの世界観は中森明菜と共同制作した「不思議」の延長。「『不思議』の双子の弟のアルバム」と換言してもしっくりくる。ボーカルエフェクトがかかっていて、サウンドを聞かせるミックスにしてあるところもおんなじだしね(――とはいえ「不思議」よりは、ボーカルに芯があって聞きやすいミックスにはしてある)。「Megatrend」のデモテープからアルバム「不思議」が生まれて、さらに「不思議」の成果をフィードバックして、「Megatrend」の完成盤が生まれ、という感じで、二作がちょうど相互補完のようになってお互いを高めあっている印象を受ける。
 「Dream of(back door night)」「Please Wait for me!」「Adulation(ニュー・ジェネレーション)」といった「不思議」収録作のセルフカバーをはじめ、激しい波涛のようなメロディーラインに壮絶なオケヒットの乱打に眩暈のような感覚を聞き手に引き起こすタイトル作の「Megatrend」(――大サビで裏メロに入るところなんざ鳥肌モノ)、妖しげで淫靡な気配が中途のリズムのブレイクでまさしく破裂する「CHERRIO」、唸りをあげて咆哮するギター、妖しげなベース、激情迸るボーカル、鳴り狂うバイオリン、とそれぞれのパートがほとんど喧嘩腰となってぶつかり合う「Where you are ?」、映画「エクソシスト」のテーマのようなオカルティックで耽美なピアノのイントロが印象的な「ATTITUDE」、などなど、「不思議」に収録されてもなんらおかしくない世界観を同じくした力作が並んでいる。ゆったりとしたシノワズリなメロディーで東南アジアのリゾートポップ風――これはいわゆる箸休めのバラードかなと思ったのが一転、突如にリズムが破綻する「Shining Time」なんかも壮絶で、全篇、一曲の制作に二、三曲分のモチーフは潰してるだろうな、という過剰な作りこみ。ここでこう展開するか、という音の驚きがいろいろつまってる。なかには「What is your wish !」なんていう、頼まれてもいないのに富野ロボットアニメ風テーマがあったりして(――富野アニメとEUROXは深い関係だから、わかりゃするけどね)微笑ましかったりもするんだけどもね。
 中森明菜の「不思議」のサウンドが大好きと言う人はもちろん、80年代のニューウェーブ好き、V系好きにはちょっと聞いたもらいたい力作かつ傑作。
 エスニック要素をふんだんに散りばめ、ゴシックで耽美的で、妖しく湿っていて、不条理な音の塊。海外の流行りモノの真似事から先の、独特の個性がある。ちょっと早すぎたんじゃないかな、彼らは。
 当時の中森明菜の担当ディレクター・藤倉克己が自らのリソースを山ほど裂いて彼らをバックアップした、その理由が、この音なのだろう。納得の一枚。