酒井政利・北島由記子「パラサイト」

酒井政利・北島由記子「パラサイト」

郷ひろみのレビューを書いていたせいか、ふと酒井政利さんのことを思い出して、ひと昔まえワイドショーで話題になったこの本を読んでみた。
が、ものすごく残念な作り。これ、ほとんどタレント本じゃん。
適当に当時のワイドショーをネタにぐだぐだとおしゃべり。なんだこりゃ。
いちおう「世の中お互い様」という当たり前のことを「パラサイト」という言葉に置き換えて、すべて「芸能界だってお互い様よ」ともっていく、という一定した視座があるっちゃあるけれども、これってただワイドショーを見ているおばちゃんのお説教とどれほどの違いがあるのか、まったくわかりませんよ。

それにどうも全てのテキストが酒井氏の語りおこしっぽくって、鬱。しかも文章起こしたライターの人(―――共著となっている北島由記子の担当と推測する。彼女の姿は文中どこにも出てこない)が無駄に改行が多くセンテンスが短い、という典型的な安物週刊誌文体で萎え。
文体の重みは全く感じられないし、取り上げるテーマもデビ夫人が羽賀研二がという「どーでもいいですよ(@だいたひかる)」なもので、しかもそれらに対して「批評」といえるほどの深い考察もさほど感じられない。酒井氏の著書を何作か読んだことがあるけれども、こりゃないんじゃないのか、とさすがに思ってしまった。
ワイドショーの騒動が熱いうちに本を出したいという気持ちはわかるし、自分で書くのがめんどいっていうのもわかるけれど、もっとちゃんとした人をライターに起用したほうがいいと思われ。急ごしらえにもほどがある。これで定価1400円はちょっとありえない。
郷ひろみ山口百恵裕木奈江久保田早紀も大好きだし、CBSソニーでの彼の活動は尊敬以外の何者でもないけれども、さすがにこの本は誉められたものじゃない。
唯一、この本で褒められるのはゴーストライターであり、表には絶対出ないはずの北島由記子の名前が著者として併記されており、彼女にも印税がしっかり入るであろうところ、それのみだろうと思う。
これが酒井さんのいうところの「健全なパラサイト」ということか。


酒井さんが本を出すなら硬派な音楽・芸能批評、あるいは自身のプロデュースした作品に関する思い出語り(―――ってこういう本は今までも何冊か上梓しているんだけれどね)、これのみに絞ったほうがいいと思う。
例えば郷ひろみ山口百恵など、各シングルごとにどこをターゲットにどういった経緯で作成し、結果今の自分の耳にどう響くか、と、売れなかった作品にもしっかり光を当てた詳細な全作レビューの本だったら、私ちゃんと定価で買います。むしろ出してほしい。


一応最後に酒井政利さんを知らない人のために彼がプロデュースしたシングル一覧がここにあるので参考にどうぞ。
や。音楽プロデューサーとしては、ほんと、ものすごい人なんですよ。

http://www.yo.rim.or.jp/~mutsu/idol80/miscDB/SakaiMasatoshi.html