私はファッションに関してはまったくもって無頓着なんだけれど、コート・ジャンパー類だけは別で、充分足りているのに、売り場をうろちょろする機会があるとつい目移りしてしまう。
コート自体持ちがいいものだし、かさばるし、着る事のできる期間は短いし、なんといっても衣服のなかでも一般的に高価な部類なので、結局買わずじまいだったりするが、とはいえ、デザインや色味、素材の質感などなどを確かめつつ、いいよなあ、などと思ったりすることしきり。でもってこの時期になると、冬物の処分などで安価なものを見つけてしまって結局買ってしまったりする。
先週の日曜も服屋の無料券の期限が近いというので足を運んで、結局トレンチコートに目がいってしまった。色味は普通のオリーブベージュだけど、袖や襟の部分のデザインが結構デコラティブで、こういうのそういえば持っていないなぁ、などと思って、つい。最近うなから紺に金ボタンのハーフコートもらったばっかなのに。

コートって、男性が、下品にならない、かといって妙に華美にもならない自然のおしゃれが出しやすい唯一のアイテムだとわたしは思う。
他の男性モノのアイテムってうっかりすると、すぐヤクザっぽくなったり、おっさんっぽくなったり、おたくっぽくなったり、と結構当人のコーディネイト能力に左右されるところが多いような気がする。それに比べて、ほら、コートってちょっと仕立てのいいトラッドなデザインのものを着ているそれだけで、なんか金持ちっぽく、いいところの人っぽく見えない?
とかなんとかぐだぐだいいつつ、ついでにセーターやシャツやパンツやらと一緒に買ってしまう私なのだった。

それにしても、服を買うというのは、どうしてこんなに心浮き立つのかなぁ。
そんな大したモノでもないバーゲン品をちょろっと買うだけなのに、結構自分のなかでは盛りあがってしまう。
両手いっぱいに荷物を抱え、鋏でタグを切り落として、家の鏡で一度試着してみる。これがまったく嬉しくないっていう人はいないんじゃないかなぁ。
「買う」という行為はまぁ、総じて酩酊とした感覚を得るものだけれども、服を買うというのはそのなかでとりわけ強い陶酔を呼び起こすような気がする。
衣服っていうのは、自分を装うもので自分を演出するもの。つまり自己愛の延長にあるものだからきっとあれほどの陶酔感を呼び起こすんだろうな。
大して服に興味のない、いつも小汚い格好をしている私でさえそうなのだから、一般的な人などいかばかりかとおもってしまう。
あの陶酔感があってこそ、人はバーゲンセールに群がり、ブランドの衣服をありがたく思うのだろうな。