【宇多田ヒカル 「Passion」】

Passion(DVD付)

Passion(DVD付)

結婚、全米デビュー失敗、シングルベスト発売、激太り(――っていうほど、太ってはいないだろ)。シナリオ中、数々のフラグを立てていた宇多田さまですが、とうとうイベント発生の模様。
新曲「Passion」オリコン 初登場 第四位 4.9万枚。

この曲、そんなに悪い曲じゃないんだけれどもねぇ。
とはいえ、トップが落ちるときってのは、そういう個々の状況とはあんまり関係なかったりするんだよねぇ。明菜も聖子も、そうだったし。憑き物がとれたとしかいえない感じで、がたっと落ちる。
とくに宇多田に関しては、その彼女の作品のヒットをささえていたのは、まさしく彼女自身であった――多くのアーティストのヒットを手がけたスタッフチームを抱えていたり、あるいは、マスに対して強烈な影響力をもっているプロダクションに所属していたり、というわけではないので、落ちるときに歯止めになるもの、ってのがないんだろうな。

ただ、彼女の場合、「SAKURAドロップス」以降、過激なまでにダークに、トラウマ語り方向に突き進んでいて、歌が、こう、非常に個人的になっていて、その結果かな、なんて一方で、思ったりもする。
新曲も、私は好きだけれども、これが100万枚売れるかっていわれたら、そりゃないでしょう、といわざるをえないし。

彼女の歌はもちろん、ステージングや、トークを見るにつけ、今の彼女はエンターテイナーではない。これは、今後も、けっして変わることなく、彼女はエンターテイナーにならないだろうし、彼女もそれを求めちゃいけないんだろうな、と、ふとわたしは新曲を聞いて、思った。誰かのために歌う――歌手「宇多田ヒカル」という虚像を演じる、という人ではなく、あくまで、自分のために歌っていく。あくまで、自分に向かって、歌を投げる。そういう人になるだろうし、なるべきだし、彼女はそれ以外考えなくて、いいかな、と。

以前「誰かの願いが叶う頃」のテキストで、「宇多田はマスを背負うかどうか迷っている」といった旨のテキストをわたしは書いたが、結局、自分のためだけに歌うことにしたんじゃないかな、と、今年の2曲を聞いて、そう感じる。
彼女は、ユーミンになることなく、浅川マキや、谷山浩子の方向(―――っていうか、今の顔のまるくなった宇多田って、谷山浩子の顔に似ていない? 藤圭子谷山浩子宇多田ヒカル、っていうか)に行くんじゃないかな、と思うし、それでかまわないと、わたしは思う。

だから、売上が下がったからって、あんまり焦って安売りしたり、ヘンな迷走しなくて、いいですからね。宇多田のスタッフの皆さん。充実した作品をつくりつづけていれば、またなにか時代と斬り結ぶこともありますから。

ちなみに、今、オリコンで、「Passion」を含む宇多田のライブ動画、無料ダウンロード配信中。まだ聴いたことがない人は聴いて「なる、こんな曲ね。こりゃ売れんわい」と実感してやってくださいな。

http://www.oricondd.com/special/hikaru/