久世光彦、死去

 久世光彦が亡くなった。70歳。虚血性心不全。前日まで元気に仕事をしていたのが、夜眠って、しかし、朝、目覚めなかった。そんな死である。
 なんか、だまし討ちされたような気分だ。

作家としての彼は、いつも、死んだ人や死のことばかりを文字に残す、もうすでに死の世界に片脚かけて、きまぐれにこちらの世界に遊びにきているような、そんな人だった。
 だから――。ずっと老人のまま、いつまでも浅い息で死の話を書き、 「あの時子供の私がいまや老境にさしかかろうというのに、なんであの人は私が生まれた頃から老人で、今でも老人で、そして生きているのだろう」
 そんな不思議な気持ちにさせる人として、ずっと生きていくのだろう、てっきりそう思っていた。
 彼は、きまぐれにこちらの世界に居残っていたのと同じように、いつもの散歩道をふいに外れるように、平成十八年三月二日、きまぐれに向こうの世界に帰った。

 作家としての久世光彦は「聖なる春」が、一番いい。日本最後の幻想・耽美作家といっても差し支えない重厚で鮮やかな狂気が味わえる。
 演出家としての久世光彦は「向田邦子シリーズ」が一番評価が高いのだろうが、あれはお行儀がよすぎる。テレビマン久世光彦らしい浪漫と狂気と笑いが凝縮されているのは、やはり「悪魔のようなあいつ」が一番だと思う。是非ともこの二作は見て欲しい。