◆ 甲斐バンド 「虜 -TORIKO-」

虜-TORIKO-

虜-TORIKO-

 82年作品。ニューヨーク・パワーステーションでレコーディング、エンジニアにボブ・クリアマウンテンを起用。後に「ニューヨーク三部作」といわれるその第一作目。音源制作に3500万円も費やした――採算分岐点が30万枚というまさしく勝負作。
 まあ、確かにそれだけの巨費を費やしただけあって、前作とはどこもかしこも段違いのクオリティー。音の抜け方がまず違う。カッコいい。それを反映してか、はっきりいって名曲ばっかりです、このアルバム。
 「観覧車'82」も「BLUE LETTER」もあるのに、「無法者の愛」も「ナイト・ウェイブ」も「ブライトン・ロック」もあって、ラストは「荒野をくだって」だもんなー。甲斐バンドの魅力ってのは、ずばり負け犬男の哀愁だと、小生、そう思っておりますが、一番負け犬臭の強い、そんなアルバムだと思う。
 流れ者の負け犬男が海辺の小さな町で捨て猫みたいな女と出会い、ひと夏寄り添うものの、女が孕んだのに男は逃げをうち、そしてしばらく後、女から男の元へ涙の粒のような手紙が届くという「BLUE LETTER」とか、どんだけダメ男だよ、と思いつつも、結構酔えるんだよなぁ。
 「観覧車'82」は、これ、もう、彼女や奥さんと別れそうな男は、みんな聞いてみるといいと思うよ。
 「呪縛の夜」なんかも好きだなぁ、わたしは。「夜が冷たくなる季節に 二人の運も尽きはて 愛も冷えてしまった 砂が黄金に変わる夜明け前に」のあたりとか、特に。
 甲斐くん、詞が意外にも、かなりいいんだよね。ドラマチックで物語的、映像的。阿久悠の演歌的な湿っぽさをもう少し乾かさせると甲斐よしひろの詞になるって感じかな。中島みゆき萩尾望都が甲斐くんを気に入っているのは、ここにあるか、な、と。