◆ ソニン 「華」

華

 ソニンになにが足りないか。なにって、そりゃ、「華」でしょ。ということで、このタイトルなんだろう。きっと。ソニンのスタッフは絶対サドだな。

 貧乏というほどカツカツじゃないけれども、バイトもせずにふらふら遊びまわれるほどさほど裕福でない、そんな芸なし能なし夢なしコネなし欲望ありの、独居独身上京女性のぬるくも悲惨な日々をハードにカミング・アウト――って、夢ねぇ――っっ。
 東京の生活にあこがれて上京したものの、ブランドバックとか意味もなく転がっているだけの空虚な1DKに自分をみつける「カレーライスの女」(――これ、カレーライスって単語が出てこないのがいいね)。
 「上京した目的とかないよ、ただちやほやして欲しかっただけ」と身も蓋もない吐露して、「ちやほやしてよ、ちやほやしてよ ちやほやくらいできるでしょ」と何度も絶叫する「津軽海峡の女」(携帯のアドレスをくるくる回しながらもろくな相手がみつからず、高知に帰っちゃおうかな、と思うあたりも無駄に秀逸、ありがちだ)。
 東京近郊のひなびた喫茶店で海老ピラフをたらふく食べて「この街で新しくやり直すのもありかな」と呟く「国領」、などなど。もう、ソニンどれだけお前は、淋しいやつなんだ、と。
 はっきりいって、これね、21世紀の女版「男おいどん」だよ。四畳半の下宿の押入れに汚いパンツがエロ本と一緒に大量に押し込まれてたり、で、そのパンツからサルマタケが生えてたり、で、「俺もやればやれるんだぜ」とかなんとか嘯きながらも屈折した妄想をせんべい布団のなかで悶々と育てる、という、あの世界。つんくはアイドルにこんな世界観歌わせて、どないしたいってゆーんだ。

 とはいえ、ここまでかぶせてくると「なんちゃって、弱い奴もまだやれる」と負け犬たちに力強くエールを贈る「奮起せよ」に妙に熱い気持ちになったりして。
 なんというか、非常に汗臭い、男気のあるアルバムです。
 デビュー時点から在日コリアンであることを隠さずに本名で活動していたソニン(――もしかして戦後芸能界で、初?)って、ある意味、ずっと昔っから腹の座っていたアイドルかもね、と、ふと思ったりもしました。