ビブロス、やおい帝国の崩壊

春なのに、お別れですか。
 「やおいコミックス系出版の最大手、ビブロス 自己破産」
http://www.shinbunka.co.jp/news/2006/06-04-05-news.htm"
 な、な、な、な、なんだってーーーーーーっっ。
 姉さん、事件です。

 まったく、今日はまったりと休んで風邪を治そうと思ったのに、パソコンの前に噛りつきだよ。
 以前ヒスイさんとの対談で語ったと思うけれども、やおい界のパイオニアは「JUNE」だけれども、やおい界の成功者は「ビブロス」なわけですよ。現在の「商業やおい」のフォーマットを作ったのは、まぎれもなく「ビブロス」。
 ビブロスの敷いた商業主義やおいってのは、もうこれは現在のやおいビジネスの王道であって、ゆるぎないものだ、と。そう思っていたのが、倒産、ですか。とり急いで情報収集したところによると、どうもやおい雑誌で儲けた金を、電子出版とか、男性向けエロとか、自費出版事業とか、どうでもいい社長の道楽事業につぎ込んだりして、それが焦げつきまくって、やおいマネーでカバーしきれなくなって、終了っぽい。「ビブロス」もやはりよくある中小出版社だったのだなぁ。感慨。

 いや、ね。やおい系雑誌ってのはさ、大抵、大手版元の少女漫画雑誌か、中小の男性向けエロ本を元々作っている版元が、その延長ではじめるってのがセオリーなんですよ、ま、エロと少女漫画の融合がやおいですから、ま、歴史的に見てそこが担当するわけなんですが、だから、こういっちゃなんですが、どのやおい雑誌も版元の片手間感というのは、もう、どうにもいなめないわけなんですね。

 別にやおいで儲けたからって、やおいに投資するつもりはさらさらないというか、そういうのがわりと見える。中小版元にしてみれば、やおいはローリスクハイリターンの手堅い商売にもかかわらず、それでもおもっくそ外様なわけですよ。

 ところが、ビブロスって出版社の、はじめて刊行した本ってのは、「メイドイン・星矢」――聖闘士星矢やおいアニパロアンソロジーなわけで、この版元は、やおいとともに生まれた、やおいこそがわが社の王道という、そういうところなのですね。なので、経営スタイルが、徹底してやおいひと筋というか、もうどこまでやおいで搾取しようというんだお前らは、と云いたくなるほど派手にやらかしてくれちゃっていたわけなんですよ。
 ま、やおいひと筋でも、「JUNE」のような「やおい愛」がないあたりがちょっとね、商売にならない作家への切りかたとか、作品としてへぼでもやおい萌えで人気のある作家への徳のないてこ入れとか、恥ずかしげもないメディアミックス展開とか、徹底した商業主義がちょっと頭悪そうに見えたし、と、私は好きな版元ではなかったんだけれども、とはいえゆうにわたしの書棚に100冊以上はありますよ、ビブロスの本。

 ーーてわけで、ビブロスは偉大なるやおい帝国を築いていたわけです。
 それが知らないうちに、わけのわからない事業に手を出し――の、失敗してすっころびーーーの、って、小金を掴んだ中小版元のよく陥るアレになるとは……。
 やっぱ、しゃっちょさんとか経営トップの人は、「やおいの出版社」って見られるのが厭だったかねぇ――。
 最近の「オタク検定」とか、明らかに腐女子の発想でない企画だったものな――。
 まぁ確かに「やおい平野にはもはやこれ以上開拓する場所はない」ってほど、ビブロスはこの原野を開拓しまくって儲けまくったわけで、そこで新たなる地平をめざす、という、それもわかるっちゃわかるけれどもね。とはいえ、外の世界は思いの他、厳しかったようで。ってか、やおい市場って、ぬるいものなーー。そうはうまくいかないべや。

 まーー、スタートの「メイドイン・星矢」にしたって当時ふゅーじょんぷろだくとから出していた星矢アンソロのフォーマットのまるパクリだったよなぁ、とか、その後創刊したもののさっさ潰れた「パッツイ」にしたって、「ウイングス」の二番煎じ臭がものすごかったよなぁ、とか、ビブロス本格ブレイクのきっかけとなった「B-BOY」にしたって、アニパロアンソロのノウハウを元に、作家は稿料の安い同人作家に頼み(――てか、初期の多くはオリジナルの同人作品の再録ばかりだった)、「ハードプレイ特集」とか「インバイ特集」とか「年上受特集」とか、毎回毎回下世話で欲望直撃なテーマで編集し、っていう、簡単にいえば男性向けエロ本業界で当たり前になされていることをやおいにそのままトレスしただけって感もあるわけで

 (――確かに、耽美とか情念とか、小奇麗な言葉で装飾されがちだった当時のやおい界において、「やおい=女性向けホモエロ本」とぶっちゃけまくって、率直に個々人のエロの趣向に合わせて雑誌として編集するというスタイルにしたってのは、まぁ、当時は新しかった。これは事実ですよ。後年これが商業やおいのメインストリームになったことに関しては「ぞっとしない」のひとことですが)、

 つまるところ、もともとあんまり志の高い版元であったわけじゃないのかもしらん。
 ――じゃ志の高い版元ってどこよ、といわれると困ってしまうが、まぁ、ヤクザな業界だよね、出版界。

ともあれ、強大無比なやおい帝国を築いたかに見えたビブロスさんは、ボンクラ社長の放漫経営という出版界のよくあるアレで、あっけなく崩壊したのでした。所詮日陰の身なのね、やおいって。合掌。

 ま、わたし的には、ひとつの時代が終わった、という、そんな感じですよ、ほんとに。これだけのシェアをもっていたビブロスなんで、どうせどっか中堅どころの版元が編集をまるかかえして、新雑誌創刊するだろうけれどもね。

 しかし、もったいないのが、近年出版された単行本だよなぁ。ビブロスはもともと増刷のハードル設定が高めで、大抵の本は数年経てばすぐ絶版になるので、昔の作品はいいとして(――ホントはよくないけれども)、ここ一年くらいの新刊、これ、もったいないよぉ。

 具体的には日の出ハイムさんとか日の出ハイムさんとか日の出ハイムさんとか――って、それだけかい、俺。
 とはいえ、どうせ後に大量にゾッキ本が出回るだろうし、よしんば今新刊で買ったところで作者に印税が渡るとは到底思えないし。うーーむ。ま、今、迷っているビブロス本、あるなら買えばいいよ、というしか。
 ひとまずここ最近のビブロスの新刊でわたしのお薦めは日の出さんの「花にて候」と「ファーラウェー」ということで。
 あ、あと安曇もかさんの単行本化されていない時代モノの短編とか、これも惜しいよ――っ。新しい版元で単行本、出してください。