山口百恵 「謝肉祭」

 「しなやかに歌って」リリース後に三浦友和と恋人宣言をした山口百恵。まだ正式な結婚・引退宣言がまったくなされていなかったにもかかわらず、以降山口百恵のシングルは「愛染橋」「ロックンロール・ウィドウ」、「さよならの向こう側」、「一恵」と、結婚・引退を意識した楽曲が続くようになる。
 そのなかで、「結婚」のイメージが唯一ないシングルが、この「謝肉祭」である。山口百恵の全シングルの中で、このシングルだけ、ちょっと毛色が違う。
 いつもの宇崎・阿木コンビなのだが、「ツッパリロック歌謡」路線でも「等身大の山口百恵」路線でもなく、いわゆるエキゾチック歌謡路線。当時のCBSソニー酒井政利班はジュディー・オング「魅せられて」や、久保田早紀「異邦人」などの海外シリーズでミリオンヒットを飛ばしていたことを考慮するに、その番外編、といった感じのシングルといっていいだろう。「謝肉祭」は強いていうなら「スペインのテーマ」かなぁ。
 ツッパリ路線は「プレイバック part2」を頂点に、前々作「愛の嵐」で、全ての手札は出し作られていた感が漂っていたので、今後の山口百恵は異国情緒路線で、という思惑が、もしかしたらひそかにあったのかもしれない。そして、その時はジュディや久保田早紀の海外シリーズのように、大ヒットを視野に入れた一大プロモーションを敢行したかもしれない。
 とはいえ、公私共に山口百恵は、当時既に結婚・引退にむけて大きく傾いていた。もちろんそうした展開が待っているわけもなく、この「謝肉祭」も、当時の山口百恵にしては平凡な成績しか残していないし、楽曲的に見ても、その後の山口百恵のどこに繋がるというのは、ない。
 ただ、後年、百恵の大ファンの中森明菜が、ツッパリ歌謡→エキゾ歌謡という変遷をたどるのを見るに、その試金石として「謝肉祭」の役割は果たしたかな、と思ったりもする。
 一時ソニーのつまらない自主規制で、聴くことが困難になったシングルであるが、山口百恵の堂々として力強い歌唱が迫害を受けながらも凛と生きるジプシーの気概のようにも聞こえる魅力的な一曲である。