クミコ 「愛しかないとき」

愛しかないとき (CCCD)

愛しかないとき (CCCD)

 本場・フランスがどうなのかは知らない。しかし、これだけはいえる。
 日本のシャンソンは、おかまっぽい。
 実際の女性のそれ以上に、くねくねしなしなして、デコラティブに女性性を主張している。
 だから日本のシャンソンは、いまいち、浸透しない。
 そんな問答無用に、女の情念でドロドロされても、ねぇ、と、一般の人はひく。


 で、クミコ。
 この人のいいところは、シャンソンなのに、おかまっぽくない。女性性が過剰でないところにある、と思う。
 愛をねっちり歌ってもさほどドロドロしない。ほどほどの情感でおさえている。
 クミコの歌う女性は「手におえない」という印象はない。
 シャンソン好きの人からしたら、物足りないのだろうけれども、それをトゥーマッチと思っている多くのリスナーには、ちょうどいい匙かげんなんじゃないかな、とわたしは思う。
 クミコのシャンソンは「おかぁさんのシャンソン」という雰囲気なのだ。
 松本隆鈴木慶一筒美京平あがた森魚細野晴臣平井夏美久世光彦谷川賢作かしぶち哲郎萩田光雄サンプラザ中野……、と、彼女の作品に男性作家――それも豪華作家陣、が集まる秘密は、そこなんじゃないかな。
 彼女の歌声には、男性の求める「母性」がある。
 女性から見れば、それはちょっとうそ臭い母性なのだけれども(――母性の裏面は表現されていないからね)、でも、まあ、いいじゃないの。男はみんなそんなもの。わたしだって、子守唄を聴くように癒されます。
 このアルバムも「太田裕美シャンソンバージョン」という感じで、手堅いです。こりゃ、松本隆さん、気に入るはずだわ