谷山浩子 「テルーと猫とベードーヴェン」

テルーと猫とベートーヴェン

テルーと猫とベートーヴェン

 映画「ゲド戦記」関連で、ほんのすこしだけ注目を浴びている谷山さんのニューアルバム。「テルーの唄」など手嶌葵の歌ったゲド戦記関連の歌、5曲をセルフカバー。
 って、そんなファンを増やす千載一遇のチャンスに、なんで谷山さん、「できることなら紅マグロのおうちに住みたい 暮らしたい」とか歌っちゃうかなぁ。

 前半は「ゲド戦記」固めで、原作への敬意を感じる ( ――ここ、ポイントね ) 良質の無国籍ファンタジーテーマ風の曲がならんでいて、これが、いいんだわ。率直なところ、手島葵の「ゲド戦記歌集」の出来に、あまり前半部分は期待していなかったんだけれども、さすが谷山浩子
 ソングライターとして魅力がとかく語られる彼女だけれども、歌手としての力も、相当なものなんだな。再認識。伊達に30年歌手やってない。アレンジも、「ゲド戦記歌集」の優等生的でフックの足りないものと比べると、やっぱり石井AQ谷山浩子のアレンジは的確。手嶌版と同じ、あまり音数の多くないアコーステックな音なんだけれども、ひとつひとつの音のニュアンスにふくらみがあって、イメージを喚起させる力が段違い。「テルーの唄」も、完全に谷山浩子の歌にしてしまっている。

 が、後半一転、「素晴らしき紅マグロの世界」だもんなぁ。
 「夢のスープ」のピアノのリフも、現実感が剥落していくようで不気味だし。
 「かおのえき」なんて、これアラビア歌謡じゃないかぁっっ。詞曲アレンジともにサイケデリックそのもの。「毛穴に種まき二毛作」とか、「かおのえき あなたの後ろに迫り来る」とか、全然意味わからん。傑作すぎる。
 で、ラストはなぜかモンティパイソンの「偉大なる作曲家」。
 「ベートーヴェンモーツァルトシューベルトショパンも、偉大な作曲家はみんな死んで墓の中。腐敗して分解して骨」 と、子供みたいな無邪気な声で歌って、最後は、小劇場風の大森博史のナレーション。
なんだこのアルバム。まともにクロージングする気ねぇーーっっ。


 「ゲド戦記」モノの歌の延長線上に、「約束の海」とか「海の時間」とか「休暇旅行」とか、ああいう壮大ファンタジー系の曲をつめこんで、もっとわかりやすいアルバムにすれば、メジャーへの可能性があるものを、あえて意味不明な歌をつめ込む谷山さん。素敵です。一生マイナー街道だけれども。
 昨年リリースしたベスト盤「白と黒」なぞらえていえば、前半が「白」で、後半が「黒」という感じかな。まだまだ奇天烈で才気煥発な谷山さんでした。
 ってわけで、そんな谷山っちと手嶌っちを見に猫の森にいってきまーーす。