ラ・ム― 「 Thanks Giving 」

 菊池桃子率いる伝説のバンド?ラ・ム―、唯一のアルバム。88年9月リリース。
 謎の黒人コーラスやら、特撮戦隊モノのようなコスチャームやら、菊池桃子のぎこちないダンスやら、ニューエイジ風の妖しげなジャケットやら、売野雅勇のペンによるヘンテコな詞やら、ネタにことかかない謎ユニット・ラム―だけれども、音源だけ聞いていると、そこまでトンチキでもなく、肩透かしを食らわされる。
 いわゆる女版オメガね、といってしまってそれで充分な、あたりさわりのない一枚。シングルのような妙な歌詞を楽しみにしていたのにがっくりだっっ。この頃のカルロストシキ&オメガトライブ杉山清貴のアルバムが好きというならどうぞ、という、80年代ど真ん中の、クリスタルでアーバンでおされで、ただそれだけという世界が広がっている。ジャケットがラッセンっぽなおされ風景写真ってあたりがすでにオメガチック。
 もともとアイドル時代の菊池桃子は、女版オメガといって過言でない林哲司のペンによるシティ・ポップス路線を引いていたわけだけで、しかも87年の「Escape from Dimension」で、さらなるサウンド強化をはかっていた(――このアルバムでは、編曲は林哲司の手を離れている)わけで、そこでこれからはさらに発展して、林哲司サウンドプロデュースを完全に離れて、ブラコン色をぐっと強くして、一気にアーティストへと飛躍、と。そこでラ・ムー、と。そういうことなんだな、と。わりとそのあたりが見えたりするわけで、まぁ、とにかく思ったよか全然フツー。
 そこでなぜ鬼面人驚かすさまざまなビジュアル的小道具が飛び出してしまったのかは謎中の謎。
 その後、ラ・ムーでハードにクラッシュした菊池桃子は、早々に歌手活動に見切りをつけ、CX系連続ドラマ「君の瞳に恋してる!」「同級生」と連投し、トレンディドラマ女優として華麗にメタモルフォーゼするのは周知のとおり。歌手活動にこだわってフェードアウトしていった他のアイドルを尻目に彼女が見事にサバイブしたところを見るに、彼女にとってのラ・ムーは、災い転じて福となる、そのものといっていいだろう。