浅川マキは、80年代のある日、不慮の事故で視力を失いかけるほどの大怪我をした。彼女の視力は回復したのだが、そのとき以来、彼女は人前に出るとき大きなサングラスを決して離さない。
 彼女がサングラスを常時かけるようになってしばらく、彼女は「アメリカの夜」という歌と同じタイトルのアルバムを作る。1986年。
 「アメリカの夜」――それは、映画で、夜の場面を昼間に撮影するためにフィルターを使う技法のことを指す、という。実際に「夜」に夜を撮影するよりも、「アメリカの夜」で夜を撮影するほうが、より「夜」っぽい映像となるのだそうだ。
 マキのサングラスを通して見る、夜と化した昼の風景、それは「アメリカの夜」だ。それは偽りの夜の風景だが、しかし、夜よりも夜らしい一面がまた、ある。
 真昼に闇を見るマキ――。
 「今はこのサングラス、気に入っている」
 マキは歌う。
 彼女はこの「アメリカの夜」を契機に、より深く、夜と同化していくようになる。

 マキが久しぶりに自選集を編む、という。「Darkness」のパート4だ。発売は2月。
 彼女は、いまでも、夜の中にひそんでいるのだろうか。わたしは、そっと彼女へと思いの触手をしのばせる。楽しみだ。