◆ 坂本美雨 「Dawn Pink」

 坂本龍一矢野顕子の娘、坂本美雨のデビューアルバム。99年9月リリース。もちろんプロデュースは坂本龍一。作家は坂本龍一をはじめ、矢野顕子大貫妙子、Arto Lindseyなどのいつもの坂本人脈になぜか 元LUNA SEASUGIZO が全面参加、なんでも美雨自身がLUNA SEASUGIZOの大ファンなんだとか。
 泣く子も黙る大御所・坂本龍一もやはり人の親なんですなぁ。「娘のため」と、趣味じゃないV系アーティストと一緒に苦笑いしながらレコーディングしている坂本教授のお姿がもう、銀盤から見えてくるよう。
 「awakening」のコーダのギターソロなんて、V系特有の保守的な湿った美意識がびんびん。これ、教授は嫌だったろうなぁ……。
 と、は、い、え。そんなSUGIZOの参加が、実は、このアルバムの坂本龍一のオーバープロデュースを一定の地点でとどめ、「坂本龍一のボーカルアルバム」でなく「坂本美雨」の作品たらしめている、というこの不思議。
 綺麗に掃き清められた日本庭園のごとく冷徹な美意識を感じる坂本必殺のオーケストレーションが涙腺直撃の「Child of Snow」や、アッコちゃんのヒューマンソング「ひとつだけ」、「色彩都市」を髣髴とさせる大貫作詞「I’ll believe the look in your eyes」など、教授の目論見としては大貫妙子矢野顕子を21世紀的に再構築したクリスタルボイスの癒し系路線ってことで、まぁこのあたりは磐石なんだけれども、聞く前から計算できるというか、ををっっ、という驚きは欠けるわけで。
 逆にそうでないSUGIZO参加作品「etarnal」「internal」などのほうが、なんというか、へんてこな部分があって、面白いです(笑)。こっちのほうが、追求していく意味がありそう。
 以後も、「彼と彼女のソネット」や「ネバーエンディングストーリー」をカバーしたりと、大貫妙子矢野顕子的な「オーガニックでスローライフで癒しで、平明でわかりやすい、いい子な坂本美雨」って顔していますが、ほんとはV系バンギャルなんでしょ、美雨ちゃんっっ。素直になっちゃえよっっ。
 わかりやすい「癒し」を歌うと、正味な話、ちょっと退屈なんだよね、彼女。大貫や矢野と比べると悪い意味で透明というか、エグみや毒気がなさ過ぎる。透明でもいいけれども、それは深みのない透明で、無味無臭という感じなんだよね。
 ここは本音をさらして、美雨ちゃんにはぜひとも「V系で癒し」という、新たな路線に入って欲しいです。ゴスな衣装で、爆音ギターで、しかし、癒し、みたいな ? ラルクさんあたりがいいかなぁ。あるいはYOSHIKI様とか、あ、黒夢でもいいや。


◆ 坪倉唯子 「Lovin' You」

 コーラスガールとして業界にはなくてはならない人材であり、BBクイーンズの女性メインボーカル、坪倉唯子の二枚目のソロアルバム。90年3月リリース。プロデュースはビーイング中島正雄。作家は織田哲郎亜蘭知子明石昌夫稲葉浩志(!!)などのビーイング陣に、松井五郎中島みゆき(!!)、清水靖晃神保彰など、超豪華――って、中島みゆきとB'zの稲葉が一緒のアルバムに参加って、ありえませんよっっ、どうなっているんですかっ。と、戦々恐々の心地でCDをかけたのだが――、これフツーのシティーポップスじゃないですかぁ。
 なんかこう、超高層ビルのスカイラウンジで、ワイン燻らせちゃう ? みたいな、メロウでアダルティーで夜の匂いがむんむんな、ある意味なんも変哲ないAORを、歌うんまいおねぇーちゃんが、時に熱く、時にクールに歌い上げ、って、高橋真梨子となにが違うのか、と。
 「貴方がそばにいるだけで世界中の人の飢えを救っている気分になれる」と歌ういかにも稲葉節な「Heaven in my Heart」の桃色妄想っぷりも、「365日、初めて会った日のように貴方を愛するわ」と歌う、これまたみゆき節な「365の昼と夜」の恋愛偏執狂っぷりも、割とフツーに耳に響いてきます。
 とはいえ、どうあがいても高品質なのは、やはりビーイング。つるっと耳に入って、心地いいです。歌上手い人はなに歌ってもいいもんやね。安心できます。ベストは「Let Your Love Glow」かな。これは土方隆行の80年アルバム『Smash The Glass』からのカバー。
 ちなみに、彼女がBBクイーンズを結成し(――というか、させられ)「踊るポンポコリン」をリリースするのは、このアルバムリリースのわずか二週間後のこと、です。