工藤静香 「EXPOSE」

Expose

Expose

 アイドルの初自己プロデュース作品ってのは、そのアイドルの本質というのが、よく見える。「いろいろ周りからいわれてその中で調整していままでやってきたけれども、本当はこういうことがやりたかったの」って感じでね。
 てわけで、そんな工藤静香の初のセルフプロデュース作品が94年のアルバム「EXPOSE」なんだけれども、これがもう笑っちゃうほどにビジュアル系。インディーズ時代からのファンに「メジャーになって、フツーにポップになって面白くなくなっちゃったよね」とかいわれる具合の、程よいメジャーぬるめビジュアル系であります。

 「Blue Rose」「naked love」「Adams 〜 征服されざるもの 〜」「Jazzyな子猫」といったあたりは、バカスカなりまくるドラムスに変な美意識感じるノイジーなギター、少ない語彙を駆使して編み上げたエロス&バイオレンスな絵空事リリック、歌唱力がないのを誤魔化すために変に凄んだ歌唱、全てがど真ん中。そのほか、ファンシーおとめチックのバラード「夢」、退屈なバラード「Pain」、妙に疾走さわやか系「STEP」、ボーカルをエフェクト処理させて実験風味な「Jagger line」など、V系に欠かせないスパイスもばっちり取り込んでおります。V系って、メジャーになればなるほどこういうぬっるーーい曲が増えてくんだよね。
 本物になるには、才能とか技術とかいろいろと足りない人が、気合と根性と厚塗りメイクと眉間のしわで補填して築きあげた中二病的な「本格」で「大人」で「耽美」な世界――それがビジュアル系の美意識だと、小生思うのですが、このアルバムにあるのはまさしくそれ。さすが、YOSHIKI様の元カノだけあるぜっっ。
 個人的にこのアルバムのベスト・オブ・V系ソングは「冷めていく音」。歌唱・アレンジ・詞、全てがV系として完璧。この妖しく耽美で思わせぶり――だけど、その実まったくの無内容が素晴らしすぎます。歌いだしの「冷めた魔術師が両手広げ 鏡の中のrebellion やさしく包む」からしてってまったくのビジュアル系で、まったく意味がない。

 これで作曲陣が、飛鳥涼都志見隆鈴木キサブロー、尾関昌也、羽田一郎など、わりとずぶな歌謡曲畑の人材ってのが面白いよなぁ。
 なぜか女性歌手には存在しないビジュアル系というカテゴリー、しかしこのアルバムと工藤静香だけは、そっとその範疇に入れてあげたいです。