谷山浩子 「電波塔の少年」

 02年アルバム『翼』収録の一曲。

 「君への募る想いに、ぼくは電波になる」

 恋情の果てに想い人へ魂魄を飛ばすというのは、古来よりよくあるモチーフだが、それを電波というところが谷山浩子らしい。

「電波になったぼくは、言葉と歌を抱いて、寒い夜の海を山をいくつもの街を越えてゆく。だけど君の受信装置は、部屋の片隅で、壊れていた。君はそこにいない。受信される当てのないぼくは虚空に消えてゆく――」

 失恋を寓話化した歌といえるだろうが、それよりさらに深く、関係性の断絶までここでは表現されている。そこが谷山浩子の作家としての深さであり、手腕の鋭さである。
 「僕はこんなに君のことだけを好きなのに」と語られる切なる思いが最後「僕はどこにもいなくなる」に帰結する、この残酷さ。
 愛は悲しい捧げ物なのだ。

 この歌をはじめ、「七角錐の少女」「森へおいで」「沙羅双樹」「アトカタモナイノ国」など、ディスコミュニケーションを描いて美しくも悲しい歌が谷山浩子にはたくさんある。これこそ谷山浩子の真髄だと私は感じる。他にこんなすごい歌作れる人、果たしているかね。