石井明美 「JOY」

 石井明美のセカンドアルバム。87年8月発売。全曲筒美京平作曲によるアダルトオリエンテッドな佳作。
 プロダクションは研音、レコード会社はCBSソニーの若松班――つまり中森明菜松田聖子のスタッフのコラボレーションという80年代歌謡界において奇跡のプロジェクトだったわけだけれども、仕上がりは何故か中原理恵風。歌唱力のあるおねぇちゃんがお水の匂いの漂うエロめな歌をしっとりと歌い上げております。気分はもう夜のカラオケバーだっ。ムーディーにもほどがある。
 「ノスタルジア」や「セレブレーション」あたりもいいけれども、個人的には、阿木燿子の怪作「響きは tu tu」に全てを持ってかかれるぜっっ。「あっあっ、のれそう」ってどういう歌詞だよ、もう。確実にイキ声だろ、これ。 ――ちなみに。この頃の阿木ねぇさんは「初恋進化論」「紳士同盟」などエロ系珍品をドロップしまくっております、一体この頃なにがあったの ? 阿木さん。
 ただまぁ、こういうファッショナブルでエロな雰囲気ってのは、どうも彼女の場合お仕着せっぽいのが、ちょっとむずがゆかったり、というのもあったりして。いいけれども、いまいちフィットしきれていない感じ。本当は、ガハガハ大口開けて手ェ叩いて笑うような、あけっぴろげでがらっぱちキャラなのを、雰囲気壊れるからしぇべるな笑うなと事務所から指示を受けていた明美ねぇさんですからな。
 ま、その面でいうと、次アルバム「Fanatique」は、音は安っぽくなったし、なんだか明菜のラテン路線とハードロック路線をまぜこぜにして劣化コピーしたのような世界観で、完成度はこのアルバムほどではなかったけれども、なんだか歌声が妙に楽しげで、はるかに彼女に似合っておりました。