宇多田ヒカル 「Beautiful World / Kiss & Cry」

Beautiful World / Kiss & Cry

Beautiful World / Kiss & Cry

 宇多田ヒカルの歌は、痛い。
 心の疵に触れてくる。
 思い出したとたんに「わぁ」と叫び出したくなるような記憶を掘り起こしてくる。
 宇多田自身にしてみればパーソナルなことを歌にして昇華しているだけなのだろうが、それがいちいち、聞き手の一番敏感なところに触れてくるのだ。
 
 「FINAL DISTANCE」あたりから、その傾向が果然強くなったけれども、「Be My Last」以降は完全にひとり横綱状態。これがポップスとしていまだ成立しているというのが、いまの彼女の恐ろしさ。こんなもん、売れなくたって、全然おかしくないのだ。
 いまの彼女の作風とマスへの受容のされ方は、初期〜中期の中島みゆきに近いと私は感じる。自己の身も蓋もない小状況を生々しく暴露しながらも、プラスそれだけでなにかがある。
 楽曲としての完成度もさることながら、救済の希求が漂っているのがいい。救われたいと願っている彼女――それは聴く私たち自身でも、あるのだ。
 つらいだろうが、がんばれ、ヒカル。あなたのあとに道は生まれる。