鬼束ちひろ「LAS VEGAS」
- アーティスト: 鬼束ちひろ(アーティスト)
- 出版社/メーカー: UNIVERSAL SIGMA(P)(M)
- 発売日: 2007/10/31
- メディア: CD
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所属プロダクションやレコード会社とのトラブルの果て五年のブランクの後のアルバムとなったが、五年の間に起こった様々が確かにこのアルバムにはある。
逃れようもないヘビーさは、かつてのそれ以上にごまかすことなくありのままで表現されているが、それでもそこには風が流れている。いままでにはない開放感がそこにはあった。
オープニング、カントリー調の「Sweet Rosemary」の悲しく軽やかな彼女の姿。あなたのこともいつか思い出すだろうと、ひとり身軽な旅を続ける彼女がこのアルバムの彼女である。密室で鬱々と自らを慰撫していた東芝時代の彼女はかつての彼女となった。
今回、鬼束のサウンドメイクのバトンを羽毛田丈史から渡された小林武史の仕事も堅実。羽毛田氏の築きあげたピアノメインのアコースティックなサウンドを基調としながらも着実に世界を広げている。バンドサウンドで光を感じる「蝋の翼」(――イカロスだろうか?)、「amphibious」に今までにない新しい局面が見てとれる。
ラスト。「わたしの弱さや痛さや孤独を、わたしが愛さなくては、誰が愛するの?」と歌う「Angelina」から「Angelina」から、アカペラのほとんど賛美歌な「Brighten Us」、「everyhome」と続く流れは圧巻。
惨めな疵を晒しながら、力強い意思をもって歩いていく彼女の姿が垣間見える。今は夜明け前。まだたどり着くことはあたわない。しかし、歩きつづければいつかはたどり着くだろう。
「まだ今は来ない次の列車を待つ」
あまりにも早すぎた傑作であったデビューアルバム「インソムニア」をこのアルバムでようやく乗り越えたといっていいんじゃないだろうか。