萩尾望都 「あぶな坂 HOTEL」

そうかぁ、中島みゆきの歌った「あぶな坂」ってのは、あれは黄泉比良坂のことだったのか。納得。しかし、長年疑問に思っていた不条理なあの歌の回答を、まさか萩尾望都から知らされるとは。


この世とあの世の挟間に立つ「あぶな坂 HOTEL」。様々な人々がここにたどり着き、そして旅立っていく――。という萩尾望都の連作形式の最新作。もちろんタイトルの「あぶな坂」は中島みゆきのファーストアルバム「わたしの声が聞こえますか」の一曲目「あぶな坂」から。
ご丁寧に一話目冒頭で「あぶな坂を越えたところにあたしは住んでいる」と、中島みゆきの歌詞をそのまんま引用しているので、これは明らかなオマージュと云いきっていいんじゃないかな。

ていうか、ホテルの女主人、藤ノ木由良が中島みゆきに見えて仕方ないっ。
長い髪をポニテにしててさ、凛として言葉少なでミステリアスでさ。こう、服もいちいち中島みゆきが着そうなものばかりで(――黒いドレスをよく着ているのは歌詞の「わたしの黒い喪服を目印に」を意識してだよね)。ストーリーも「夜会」なんかでやりそうなノリで、元々萩尾望都は非常に舞台的な漫画作りする人だけれども、これはあきらかに夜会だよな、と、思ったり、そもそもこの「HOTEL」ってのも好んで中島みゆきが使う舞台だったりして「ミラージュホテル」なんかもこの作品ににあう歌だよな、と思ったり、つまりは、「是非、中島みゆき主演で映画化していただきたいっ」そんな一品かと。


作品自体は超鉄板の良質すぎる連作短編。どこに出しても恥ずかしくない世界が誇る日本の萩尾望都です。
わたしが一番好きなのは、第3話「3人のホスト」かな。定期も保険も解約してホスト遊びにのめりこむ自称クララ姫、本名猿渡福子41歳のスイーツ(笑)っぷりが素敵過ぎる。ホント、萩尾センセー、愛すべき馬鹿女を描くのうまいよなぁ。
それにしても、モー様がみゆきの歌ちゃんと聞いているとはというのはやはり意外。
「ふたりとも甲斐よしひろと仲良し」くらいしか繋がりがあるとは思えなかったのにな。