米良仁「新判 丹下左膳」

 格闘ゲーム全盛の90年代中頃「サムライスピリッツ」のキャラクタ―デザインを担当した白井影二さん、SNKが倒産してその後どこにいかれたかと思いきや、別名で劇画誌「コミック乱 Twins」(リイド社)で時代劇漫画を書かれていた。というわけで読む。
 派手な剣戟よりも小粋な人情話が主体。読んで血が熱く滾るというのはなく、むしろ人肌でほんのりと暖かくなる、という感じ。時代・歴史モノというとどこか男性原理的な上昇志向やらなんやら、「男たるもの〜べき」といった鬱陶しさがつき纏うものだけれども、それがここにはない。
 それは丹下左膳が「一度死んだ者」=「男性社会から排除された者」だからだろう。 彼は藩内の派閥争いに巻き込まれ、瀕死の重傷のまま山に捨てられたところを蒲生泰軒と後の妻になるお藤に拾われ、そこでそれまでの名を捨て、丹下左膳となる、という履歴を持っている。であるから、彼には男性社会のしがらみが一切なく、あるがままに愛するものを愛することができる。
 本当、この左膳、羨ましいほどにお藤とらぶらぶだし、ちょび安のいいパパなんだよな。理想の家族だよ、ホント。だから彼は、強くてカッコよくっても、全然押しつけがましくない。
 奥さんと子供に囲まれて、幸せだったらそれでいいじゃん、という姿勢なのだ。しかし自分がそうであるようにはみないかないのが世の中であり、その哀歓が物語の核となっている。
 この丹下左膳の解釈は一般的に敷衍されたものなのか、あるいは作品独自のものなのか、私はわからないけど、とにかく、いいなと思った。
 この本は雑誌掲載の全28話のうち九話を選んで収録、続刊は売上次第というところだったのだろうが、この単行本も出版されて五年、未収録はこのまま埋もれるのかぁ。勿体無いなぁ。読みたいなあ。