紫宮葵「黄金のしらべ 蜜の音」

黄金のしらべ蜜の音 (講談社X文庫―ホワイトハート)

黄金のしらべ蜜の音 (講談社X文庫―ホワイトハート)

 前作に続いて、ホワイトハートで今回は東南アジア風JUNE。
 地上天。大規模リゾートとして開発されたこの常夏の南島は、革命で追放された王族たちの最後の許された土地でもある。島に忍び寄る不穏な死の影。淀んだ沼から途切れ途切れに聞こえるカストラートの誘うような幻の歌声。過去に生きる種族たちのかそけき夢の切れ端――というこんな感じの、耽美ぃな感じのお話で、ストーリー自体の意味はなさげ。
主人公の瑞麗(ルイリィ)の、最後の皇帝の落胤でありながら盗みと鴉片と売色の愉しみを知る悪徳の美少年っぷりと、幼時の瑞麗を暗黒街から見つけ出して王族の貴公子として磨きあげた叔父、雷鏡(レイジン)のヘタレ受っぷりに萌え萌えするのが一番の楽しみ方かな。上品におさまった「夏至南風」(長野まゆみ)といったところか。
 物語は、はじめは従僕たちの飼う蟋蟀が死に、次に皇太后の愛犬が、その次には鴉片漬けの老いた庭師が、さらに皇太后が、忠実なる老執事が、と次々と忍び寄る妖しい死の影、その原因に辿りついた時――え、なにそれ、というちょっと残念な展開が待っておりましてね。多分ね、これ、設定とか人物とかはきちんとこさえていたんたろうな。
 前半の地上天の豪奢で爛れた感じ。夏前のすがしい匂いと妖しい予感。そこに住まう最後の王族とその従者達の、ぬかるんだ泥のような頽廃と滅びの気配。そういうのはきちっとリアルに迫ってくるんだけれども、肝心の物語の核心にいたるところで、あ、このあたり考えてなかったな、というテンプレなオカルト展開で萎えます。もったいないなぁ。
 ここまで世界を作ったのだから、ハンパなハッピーエンドでお茶を濁さず、もっと踏みこんで欲しい。もっと泥をかぶって血まみれなってほしいぞ、と。お綺麗なだけで「耽美」になると思ったら大間違いなのだ。