堀ちえみ 「クレイジー・ラブ」

 彼女ってのは、なりふりかまわずのめりこむ人なんだと思う。後藤次利との不倫騒動しかり、その後の突然の芸能界引退しかり、泥沼の離婚騒動しかり、キューティーマミー脱退しかり、思い込んだら周囲の視線かまわずの強行突破。
 五児の母という戦後直後のような多産っぷりも、彼女に限っては、子供好きなのは確かなんだろうけれども、それ以上に女としてのリビドーがやむにやまれぬ方向に炸裂したはてという感じがするのだ。エブリデイ・前のめり。そんな彼女が演じたからこそ「スチュワーデス物語」は昭和ドラマを代表するオモシロ感動大作として成立したと私は思っている。思い込みが強ければ強いほど彼女ってなんかおもろいんだよね。ご本人は至って本気なんだろうけれど。
 そんな彼女のアイドル歌手としての代表作となると多分この歌。84年秋のシングル。当時大流行したボニータイラー風というか、「Never」とか「HERO」とか、アレね。ブラスぐわー、シンセぐわーで、煽る煽る煽りまくる。
 「芝居は大映ドラマで当たったんだから、歌も大映ドラマの主題歌みたいな歌でいいんじゃない?」多分こんな感じのお手盛りなコンセプトで作られたに間違いないだろうけれども、これがどんぴしゃ。思いっきりのめりこんでクレイジーに熱唱する堀ちえみの本気な姿がなんだかファニーでオモシロ素敵。ダサくて滑稽なんだけれども、コントすれすれの本気っぷりに不思議と捨て置けない魅力が出てくるんだよな。この歌でオリコン2位、ザ・ベストテン3位、自己最高を記録しています。
 とはいえこの独特のヘンテコな魅力は誰びとにも、彼女本人ですらコントロールは不可能、さっそくそれは悪い方向に働いて翌年の「Deadend street girl」「WA・ショイ」のダブルパンチでアイドル沈没してしまうのであった。嗚呼。