猫日記
5/12
夕方。近所のスーパーに買出しに行く。スーパーの向かいのほか弁屋で張り紙を見る。
「子猫が産まれました。里親探しています」
その下に電話番号が書いてある。
一瞬立ち止る。迷う。ひとまず家に帰る。食材をしまいながらも、まだ迷っている。迷う自分が鬱陶しくなってくる。面倒くさい、もう引き取られてるかもしれないじゃないか。電話だけでもかけてみよう。
「まだ一ヶ月くらいなんだけれどもねぇ、見てみる?」
「じゃ、今から行きます」
見るだけだから、そう言い訳しつつも、エコバックに使い古しのバスタオルを敷いてまた出掛ける。五分で着く。
「さっきの人? 早いねー」
飼い主さんに驚かれる。もしかして自分、がっついてる?
「昨日張り紙出んだけれどもすぐ決まっちゃってね、四匹のうちの最後がこいつ」
三毛猫がバスケットのなかで眠っている。小さい。というか小さ過ぎる。しかも両目の周りにかさぶた状のものがあって気がかり。一瞬ひるむ。
「本当はもうちょっと面倒見たほうがいいんだろうけれどもね、みんなすぐもらいたいって、連れてっちゃって」
どうやら飼い主さんは、迷い猫の面倒とかをついみちゃう系の人っぽい。細かいことはさほど気にしなさそう。
「他に引き受けたいって方とかいるんですか?」
「写メ撮って、家族と相談って人とか。電話も何人か」
うぐっ。すぐ近くに動物病院とペットショップと幼稚園があるものなぁ。こりゃ、即決しないと、多分うちの子にならないな。ってか、ここまで来たなら答えはもうひとつしかないはずだろ。
「じゃ、もらい受けてもいいですか?」
バックに子猫様を入れさせていただく。おとなしい。
「一ヶ月くらいしたら写メ見せてね」
「はい」
帰りがけに子猫用の缶詰を買って帰る。家に着いてバックを広げる。熟睡しておられる。
ダンボールを組み立てて使い古しのフリースを敷く。そこに寝かせる。
猫欲しいねと云いあっていた友人に「猫ゲットしちゃった−っっvv」とメールを送る。
猫、お目覚めになる。水と猫缶を与えようとするがお食べにならない。緊張しているのか。
慣れていただくために、部屋に放してみる。うろうろする。かなり元気。でも足腰がしっかりしてない。ガニマタでよろよろ歩く姿はまるでモモイロトカゲのよう。そしてやたらめったら狭いところに入りたがる。
本棚のなかがご満悦だったのか、そこに入ってじっとこちらをご覧になる。時折、こちらに歩み寄ってもこられる。
猫サイトで色々と調べる。そろそろ寝つかせた方がいいかなと、ダンボールに戻す。
子猫様あっけなくダンボールを飛び越えて、本棚にもぐりこむ。そこがいいのか、そこが。ダンボール、意味ないやん。解体して、本棚にフリースを敷く。本棚で子猫様ご満悦。
5/13
猫トイレ一式セットと猫ミルクと爪とぎボードを買い出す。
猫トイレは成猫用だと大きすぎるので大きめの鉢植えの水受け皿で代用する。
さてどうしてトイレットトレーニングすればいいのか。ひとまず猫トイレに子猫様をお運びする。と、早速そこでお出しになられる。大成功。
食事は猫用ミルクと缶詰をぐちゃぐちゃにして離乳食っぽくしたのを出してみる。目の前に皿を置いてみる。食べ物だと認識されないご様子。
「おら、食え」
お顔を無理矢理お皿に押し付けさせていただく。食べ物があると認識した様子。ガツガツ食べだす。
それにしても目の周りがやっぱり気になるなぁ。両目がきちんと同じように開かない時がある。左眼がちょっと半開きになりがちで涙目っぽくもある。目やにも気になる。
5/14
健康診断ついでに動物病院に連れて行く。バックから不安げにこちらをみる。手を差し入れるとぺろぺろと舐められる。子猫様はこちらをかなり信頼してくださっているご様子。
大きな通りに面していて、待合室にはさんさんと光の入る、ちょっとお洒落なカフェ風の内装な動物病院、何も狙ったわけではない。一番家から近いのだ。
「まぁ、大丈夫ですね。爪でみだりにひっかかないように爪を切ってあげて、あと塗り薬も一応出しますね」
ふむ。家に帰って爪切り。こちらはおとなしくされるがまま。傷薬を塗る。染みたのか、ふぎゃとはじめての威嚇。
さてお食事。お皿に置いた食べ物をカツカツと勝手に食べて、食べ終わったら、スタタタタとトイレに直行される。マーベラスっ。
5/15
朝。気づくと同じ布団でわたしの太ももあたりを引っかいている。痛いよ。と、子猫様のご尊顔をよく拝見する。アレ? かさぶただかなんだか、かなり取れてない?
指の腹で強く撫で付けてみる。あ、取れるわ。あっけなく完治。一段と美猫ぶりに拍車がかかる。
5/16
猫様の、んこした後の砂の被せへの執着は異常。
必死になりすぎて目測見誤り、子猫様、後ろ足で自分のんこをふんでしまう。
うんこ、ついた……。子猫様ありえないほどブルーになられる。
もう、拭くって、拭かせていただきますってば。
5/17
子猫様は完全にこちらを飼い主と認識されたご様子。
布団で寝っ転がっていると布団に入り、モニターの前にいるその隣に座りだし、ソファーいると乗ってきて、と常にこちらを意識したご行動。
寝起きにはやたらちゅっちゅと顔を舐めまくる。まったく魔性の激プリっぷりであられますな。
5/18
深夜の大運動会。
かまってやらないからといって、おもいっきり助走をつけて寝てるわたしの顔面にダイブしないでくださいお願いします。
だってあんた、いちいちが本気噛みでいたいんだもん。
5/19
家に帰るとむくりと起きだして甘えた感じでこちらにご挨拶。
あーん?自分が可愛いと思って調子に乗ってんじゃないのぉ?ちょっと媚売りゃ上手い飯が食えるしぃ?みたいな?
ったく、こんな可愛い生物がこの世にいてよいものなのかねっっ。
子猫型のエイリアンが地球に侵略してきたら、多分、人類はあっけなく負けると思うね。
5/20
もうそこらじゅうでリラックスしまくっている。
お股をぱっかーんと広げたまま、だらしなく熟睡。
あんたそんなところで寝てたら危ないって。踏むわ。
5/21
アレ? なんかあんたでかくなってない? 来て二、三日目には通れたところが通れなくなっているし、初日に引きこもった本棚の中もめっきり入らなくなってるし、トイレもなんか、最近狭そうだしな。
毛艶もつやつやして、表情も自信に満ち満ちた猫っぽい感じで、足腰もしっかりしてる。前はもっとあんた、しょぼくれてたよね。
料理用の測りに載せてみる。700gだとーっ。一週間前に病院ではかったとき500gだったよな。仕方ないのでトイレを二倍サイズのものに新調する。