ランカ・リー(中島愛)「星間飛行」

星間飛行

星間飛行

 狭義の意味で「アイドル」って言う存在は、おそらく平成の壁に激突して、乗り越えられなかったんだと思う。
 「おにゃんこクラブ」をはじめ、アイドルという商品の製造過程が明らかになったこともあるし、あるいは岡田有希子中森明菜など、アイドルを演じた者たちに巻き起こった様々な悲劇もある、同時期に杉本彩、田中美奈子、森高千里など、直接的に男の性欲を掻きたてるビジュアル戦略を用いたアイドルが乱立したというのもあるだろう。ともあれ、そのような様々な種明かしをもって、少年たちのあえかな擬似恋愛の対象としてのアイドルは存在として不可能になってしまったのだ。


 その代替となったのがゲームや漫画、アニメ、ライトノベルにあるキャラクターたちだ。
 その端境期を10代として同時代的に体験していた身として、それは理屈でなくわかる。90年代を生きた大抵のイケテナイ少年達の幻の恋の相手が、それらだったのだ。
 その時、十代の行き先のない恋情を仮想空間に投げかけるっていう行為に、実際の肉体は、必要なくなってしまった。発展的解釈で言えば、わたし達はより高度な次元に到達したといってもいい。
 しょせんどうあがいても仮想の恋なんだから、本人が実在しようがそうでなかろうが関係ないし、むしろマネージャーと駆け落ちしたり、不倫スキャンダルを起こしたり、プロダクションと契約トラブルで活動できなくなったり、喫煙写真を激写されたり、激太りしたり、衝撃のヌードを披露したり、とんでも整形したり、と、「ご本尊」が余計な事をしてこちらを醒めさせてくれないし、一生若く、可愛いままで、そっちの方がなにかと便利じゃない!?
 そのように、狭義のアイドルポップスはアニメとその派生の世界――アイドル声優の歌たちのみによって、その血脈を受け継ぐようになっていく。それも最初は細々とした流れだったのが、いつしかずいぶんな大河になってしまった。


 そしていま、「星間飛行」を聞いた。笑ってしまった。
 「マクロスF」のヒロイン、ランカ・リーのデビューシングルという設定でリリース。つまり飯島真理の「愛・おぼえていますか」とか「わたしの彼はパイロット」とかあの系譜。作・編曲は、いまやアニメ音楽界の筒美京平といって過言でない菅野よう子、作詞は、80年代アイドルポップスの雄、松本隆御大。最高位五位、ネットでも大評判、売れた。
 ってこれ、明らかに80年代アイドルポップスのパロディーでしょ。「キラっ☆」とか決めポーズされれば仰け反るしかないっての。
 当時そのものでなく、ここにあるのは少々悪意のある80年代オマージュ。全体は現在的にリファインさせつつも、そこに過剰にデフォルメされたかなりはずかしめの80年代臭を大量に投入したという感じ。
 菅野よう子は、「マクロスプラス」以来、90年代後半のアイドル声優坂本真綾のプロデュース作業など、アニメ音楽という形で生き残った現在進行形のアイドルポップスというものを完全に把握していたわけで、とはいえ、そこで本家本元の松本隆御大に依頼するというのもいい度胸だけれども、そのオファーに貪欲に応える松本隆御大もすげぇタマだな。あっきらかにふたりとも狙ってます。変に宇宙とか銀河とか、壮大さを醸し出しながら「キラッ☆」だもんなー。下世話なんだか高尚なんだか。これだから、プロってやーよねぇ(笑)


 Perfumeがどのような手段を講じようとも結局のところ、生身の肉体をもつというただ一点のみを理由に初音ミクIDOL M@STERらに比べて(ある面においては)常に不完全であることからもわかるように、これが中川翔子でも松田聖子でもなく、ランカ・リーだっていうところが今の時代なのだ。
 それがいいことか悪いことかってのは、わたしにはわからないけれども。とはいえ、アイドルポップスはおそらくこういう形でしか、もう世には出てこないだろうなと感じる一曲だ。