萩尾望都 「レオくん」

 09.06.10発売。二本足で歩けるし、人間の言葉も話せる猫さんたち。そんなパラレルワールドを生きる一匹のオス猫「レオくん」の日常を描いた短編連作集。大島弓子ますむらひろし+藤子F不二雄ともいえるけれども核にあるのは、萩尾イズム。「とっても幸せモトちゃん」とか「あぶない丘の家」とか、時々萩尾さんがトライする「よいこ漫画」の系譜といっていいかな。
 レオくんはなんでもする。小学校にも入学するし、漫画のアシスタントもするし、婚活もするし、ペット雑誌の編集もするし、スターを夢見て「グーグーだって猫である」の撮影現場にだって乗り込んじゃう。
 でもどれもこれもいちいち上手くいかない。学校の先生には行動のいちいちをやんわりと否定されるし、お見合いは連敗街道まっしぐらだし、漫画の原稿は台無しにするし、映画にはエキストラにすら使ってもらえないし、雑誌編集の仕事ではプレッシャーに押し潰れてしまう。
 どうして上手くいかないのだろう。レオくんにはわからない。でも読み手のわたしたちはわかる。だってしょうがないじゃん。レオくん猫だもの。
 世間と自分との間にある些細な、しかし絶対的であるズレ。それをさりげなくも客観的に、かつリアルに切り取って読者に提示する、その筆致の鋭さというのは、やっぱり萩尾望都なのだ。
 「残酷な神が支配する」「バルハラ異界」と、とてつもなくヘビーな作品を連続で10年弱描いていた萩尾さん、今は肩の力を抜いて、軽めのものにトライしたい時期なのだろうけれども、決して手抜きはしないのである。素敵っ。
 しっかし、レオくんのフォルムのリアルな可愛くなさが、しかし読みつづけていくうちに可愛く見えてくるという不思議。ま、でも、うちのネコさんの方がかっわういですがねっ。