くめさゆり 「天使のパン」

天使のパン くめさゆり・さんびか集

天使のパン くめさゆり・さんびか集

 元・久保田早紀、くめさゆりの13年ぶり三枚目のアルバム。収録曲はオリジナル楽曲とスタンダードな讃美歌が半々。
 参加ミュージシャンは夫の久米大作(――アルバムのサウンドプロデュースも彼)をはじめ、Coba吉川忠英仙波清彦金子飛鳥など。
 85年の結婚を契機に商業作家・歌手としての久保田早紀の名前を捨てて、教会音楽家久米小百合となった彼女だけれども、ここまで来ると久保田早紀久米小百合は同等なんじゃないかなと、聞いて思った。
 前作「はじめの日」は《教会音楽家としての初のオリジナル作品集》ということで、「これは神へ捧げる歌なんだ」という、ある面では肩肘張った所があったのだけれども、今回はそうしたしかつめらしい部分は大分薄まっている。
 殺伐とした時代を癒すネオ・トラディショナルソングとして、充分なポピュラリティーとクオリティーを保っているし、なにより歌そのものが久保田早紀時代に見せたものと根幹でまったく変わっていないのだ。オリジナルの「天使のパン」「道化師の夜」など、久保田早紀となにが違うのだ、と。元々久保田早紀の世界ってポップスにあって異常なほど神秘的で敬虔な雰囲気のあったしね。
 それにしてもこのアルバム「異邦人」の頃からまったく声質が変わっていないのは驚嘆する。とにかく声が清新なのだ。一曲目「アメージンググレース」の歌唱(――この日本語詞が素晴らしい!)には思わず涙がこぼれる。洗い清められる一枚だ。