江森備「ブルー・クリスタル」を読んでいる
ブルークリスタル 公爵ドラキュラ 上巻 (fukkan.com)
- 作者: 江森備
- 出版社/メーカー: 復刊ドットコム
- 発売日: 2010/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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今回は「吸血鬼ドラキュラ」のモチーフとなった15世紀のルーマニアのウラド三世のお話。上・下巻で2段組で計900ページというボリューム。いま100頁ちょっとまで読んだけれども、やっぱり濃いです。
近現代にいたるまで様々な紛争の火種となっているバルカン半島の民族・宗教・国家などなどのあまりにもややこしすぎる事情にもがっつり踏み込んでいて、なおかつ陰険な権謀術数が繰り広げられ、どんな良い奴も悪い奴も死ぬ時はあっさりと死んでゆく非情で冷徹ないつもの江森史観なので、こっちの勢力がこうなったとおもったらこっちがこうなってと実にめまぐるしい。もっとゆったりと脇キャラを掘り下げてもいいんじゃないかなぁっていう部分もバンバンぶっ飛ばしていきます。
面白いなー。色々と覚えておかなきゃいけない設定やら知識やらが冒頭から怒涛のごとくあるので最初がちょっっと入り込みにくいけれども、やっぱり物凄い筆力。歴史戦記モノとして圧倒的なパワーがあるな。
ただ今回はJUNEかというと、いつもの孔明さんタイプの線の細い美青年ウラド公とその側近の男装の猛将ストイカちゃんのカップリングがメインなので、JUNEっつーより少女漫画的なのかな? ほとんど男な感じでパワフルマッチョにちからこぶっているストイカちゃんがウラドを前に時々乙女になるのがかわいいっす。王の眼から特にそうだけれども、強い女がうまいよね、江森さんって。
句読点の打ち方、漢字の開き方、ちょっと迂遠な描写など、パッと見の文体は前作「王の眼」にもまして(全盛期の)栗本薫的。今回はワラキアをヴァラキアと敢えて表記したり、下巻登場のウラドのペットの名前がイシュトヴァーンだったり、と、追悼の意味もこめて意図的にやっているのかな。あとがきでも江森さん、本気で薫に向けて追悼とラブを語ってます。
ただ今回「復刊ドットコム」のオリジナルとして刊行したわけだけれども、編集・本文デザインはNGだね、これ。
全体的に字をつめすぎていて(――まあ、それは仕方ないにしても)、そのくせ余白部に余計なデザインをいれていて目障り。特にノドの余白が足りなくって、ノドから一行目が読みにくくなっているのは問題。あと紙が薄いせいか微妙に裏写りしている。これも紙変えればすむことなだけに惜しいな。
校正に関しては、これ、プロがやったのかなぁ。カギカッコの部分が全部「○○なわけ。」と、「句点+カッコトジ」で統一していて、まあ、文法的には間違っていないんだけれどもさ、気になった。あと、三点リーダとか、「――」ってのばし棒のあと句点をつけるつけないとか、統一されていなくって。
なんとなくこれら全て同人作りに慣れていないレベルの人がするミスって感じでね、凄く残念。もともと絶版本の復刻がメインの版元だから一般書籍を一から編集するノウハウはないんだろうけれどもね。
ただ話自体は(読み途中の現段階では)すんごい面白いし、まあ、改訂版文庫判が出る可能性は今までの実績からいって薄いだろうし、是非読んでみてみて。今時珍しい重厚JUNE?だから。