川上弘美 「ハズキさんのこと」

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

 なにこれ。これじゃ、向田邦子じゃんよー。原稿用紙換算で10〜20枚程度の掌編が23作。新聞の隅っことか、高校入試の国語の試験とかに載っていて違和感のない、善人そうで、庶民的で、ちょっとだけ古めかしくって、ほのかな色気もあって、洒落とオチがきいてて、いかにもおっさん連中が「うまいなぁ」と唸りそうな――事実、むちゃくちゃ手練れてるんだけれども、作品がずらりと並んでいる。
 ある意味彼女を支える客層、ズバリ狙い撃ちな作品といえるわけだけれども、やっぱり、ちょっといい話でほっこりしてる(だけの)川上弘美なんて面白くないっ。「椰子・椰子」とか「蛇を踏む」とか、もっと不条理でぶっ壊れてて、無駄エロい川上弘美がみたいぞ。「センセイの鞄」みたいな退屈なファザコン小説がいちばん世間受けしまう現実が憎い。つまんない感じで小さくまとまってしまって欲しくないなあ、彼女は。作品自体は小憎らしいほど上手いので、いい話が好きとか平気な顔して言えちゃう人には、かなりオススメな作品。