杏子「Naked Eyes」

 前エントリが男の御都合主義による「女のエロス」なアルバムだったので、今回は女の手による「女のエロス」なアルバム
 バービーボーイズのセクシー姐御、杏子のファーストソロアルバム。92年11月発売。銀座じゅわいおくちゅーるマキのCFソングとして大量投下された先行シングル「DISTANCIA 〜この胸の約束〜」(作曲/玉置浩二)は意外にも高橋真梨子風の異国情緒路線だったもののアルバムは割りとバービーの路線の延長。作詞は杏子本人で、曲は川上シゲ、大沢誉志幸大平太一などなどが担当。
 バカスカのロックビートに載せて、ED気味の恋人に「言葉より硬いアソコを突き刺して」(「夜の非常識」)と、アジってみたり、エロティックなきわどさを全面にふりまきながら、いろいろあったりなかったりの大人の女の本音大胆曝露、という、これってわりと後の大黒摩季路線に近かったりもして。とはいえもちろんただ過激なだけでなく、その裏側にある孤独の影が漂い、それでいて重すぎにならないのが杏子の良さ。まぁ、いろいろあるやね、生きてると。と、口笛吹いている身軽さがあるのだ。
 事故死した友人を悼んだ「彼女の事故(アクシデント)」にしても、情に水浸しにならずに乾いた質感。不倫を歌った「二番目に愛されて」にしても、眼差しは相手ではなく内へと向かっていく。「スペアの男だっているのよ」と破局間近の恋人相手に強がりを重ね、重ねるほどに滲み出る哀しみがいい「なし崩しの週末」、言葉遊びの面白い「ビデオと不眠症とPOSY RING」あたりも良作で、ラストを飾る「Down town Christmas」も華やかな年末の雑踏を少し粋にひとり歩きする姿がよくって傑作。ジャケットやインナーのアラーキーの写真もいい感じだよね。
 三十路女性ロッカーの実存の滲み出る良盤。手に職つけてひとりで生きてる女性にはリアルに響くアルバムでは。次のアルバム「別天地」もいいんだよね。