「ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団」

ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団

ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団

 谷山浩子デビュー40周年記念アルバムは、08年以来コンサート「猫森集会」にて共演を続けているROLLY(ローリー寺西)とのコラボアルバム、谷山浩子の既発表曲を彼色に染め上げてみたら……という趣向。よくあるメモリアル系の歌いなおしアルバムなのかな、と聞いてみたら、いやいや、そんなヤワイものじゃないぞ。
 「姫君、40周年おめでとうございます」ってな感じでROLLYが忠実な騎士バリに谷山浩子の前にかしづき手を取り、優雅にエスコートするかと思いきや、唐突にレッドカーペットの上で奇妙な踊りを踊りだした。谷山浩子、それに唖然とするかと思いきや、一緒にくねくね踊りだした、みたいな、そんなアルバム。
 谷山浩子のアルバムというより、「Vo&Pf:谷山浩子 Vo&Gt:ROLLY Key:石井AQ Dr:高橋ロジャー和久 Bs:佐藤研二」という編成による新バンド「からくり人形楽団」のデビューアルバムと見たほうが、より正確。ROLLYと彼率いるTHE卍が、谷山浩子をサポートしているというよりも、メンバー全員で面白がりながらアイデア出しあって、気がついたらアルバム一枚出来ていた、といった佇まい。それぞれの力関係が対等なんだよね。だからこれは、ソロイストのアルバムというより、バンド。
 聞いててわかるもの。これ、レコーディング楽しくってしかたなかったんだろうなっ、て。ライナーノートも、笑っちゃうほどお互い絶賛の嵐でさ、収録予定なかったけど曲できたから、歌いたいから、録音しちゃいました、とか、そんなんばっか。
 正直、リリースのアナウンスを最初に聞いた時、ここまで遠慮斟酌なくがっぷり四つに組み合ったアルバムになるとは正直思わなかった。感服。
 谷山浩子の心には、粘液質でぬとぬととした、大蛇のようなものがとぐろを巻いていて、それが少女趣味メルヘンの隙間から時折垣間見えるのがディープなファンならたまらないのだけれども、そんな谷山浩子の持ち味である少女地獄世界に、ROLLYの心の奥底に常に眠る、友達のいないいじめられッ子少年の放課後のひとり遊びじみた夢想世界が重なり合って、醒めない夢の万華鏡世界が広がっている。まさに見事な化学変化。江戸川乱歩丸尾末広といった、キッチュでゴシックな怪奇耽美浪漫が好きな方にはたまらないんじゃないかな。
 谷山浩子の今までのアルバムでは耽美主義の強さで言うなら「歪んだ王国」が一番近いと思うけれども、ま、やっぱりこれは、別物かな。
 夕闇の空き地の隅、友達がみな家に帰っても、いつまでも遊びつづけるひとりぼっちの少年、その背中に、これまたひとりぼっちの少女が話し掛ける「なにやってるの」。
 誰もが大人になって、心の空き地から静かに去って行く。しかし、いつまでも遊びつづける子供がいる。最後の少年と最後の少女、それがROLLYと谷山浩子であり、そんなふたりの月の青白い光に照らされた真夜中の空き地の遊戯が、この「からくり人形楽団」というアルバムといえるかもしれない。
 ラストを飾る「哀しみのからくり人形楽団」から「カズオくんと不思議なオルゴール」には、ぞくりと来る。いつまで見ていたい悪夢がここにある。