小泉今日子「Betty」

Betty +5(紙ジャケット仕様)

Betty +5(紙ジャケット仕様)

 84.07.21発売、最高第3位、23.0万枚。小泉今日子の五枚目アルバム。
 全曲筒美京平作曲+船山基紀編曲。作詞は銀色夏生康珍化松本隆森雪之丞
 84年4月発売の柏原芳恵「ラスター」と双子の姉妹的な≪筒美's テクノ歌謡アルバム≫といっていいが、そこまで強烈なインパクトはない。「ラスター」が柏原芳恵のカタログにあって異彩放ちまくりなのと比すると、フツーに小泉今日子の世界に馴染んでしまっている。
 良くも悪くも器用にこなしちゃうんだよね、彼女って。その後も、パチパチ系アーティストとのコラボした「Hippies」、近田春夫とハウス歌謡を追求した「イン・ザ・ハウス」、KOIZUMIX PRODUCTIONと銘打った様々な実験プロジャクト、菅野よう子との「オトコのコ オンナのコ」、などなど、数え切れないほど様々な冒険をしても「アイドルポップス」という手のひらサイズのフォーマットにすんなりまとまってしまう。「ナニコレ、スゲー」という部分は一切ない。このあたりが小泉今日子という歌手の良さでもあり、また限界でもあるな、と愚考。破天荒でやりたい放題に見えて周囲の空気を読みまくった安定志向、そんな彼女の傾向がはじめて垣間見えるアルバムといえるかもしれない。
 セールス面では、20.8万枚を記録したファースト「マイ・ファンタジー」から売上微減傾向だったのをここで一気に取り戻し、自己記録を更新している。シングルでみると石野真子フォロワーだった「素敵なラブリーボーイ」「ひとり街角」あたりでじりじりと売上をのばして「まっかな女の子」でイメチェンでランクアップ、「艶姿ナミダ娘」で聖子・明菜に次ぐ三番手に位置を獲得、と、基本右肩あがりだったものの、それがアルバムセールスに影響を与えなかったというのが、面白い。―てか、初期の世界観って、アルバムに関しては、結構受けいれられていたんだね、コイズミ。
 楽曲はビックバンドを打ち込み再現のスウィンギーな「素敵なNight Clubbing」にはじまり、「迷宮のアンドローラ」の姉妹作と言ってもいいスペイシーでドリーミンな「天然色のロケット」、マイケルジャクソンの「スリラー」とピンクレディーの「モンスター」を足したような遊園地感覚溢れる「13日の金曜日」、中期YMOを髣髴とさせる重低音サウンドが心地いい「哀愁ボーイ」などなど、色とりどりの歌謡曲万華鏡、バラードの「今をいじめて泣かないで」「バナナムーンで会いましょう」もだれることなく、コケティッシュないい仕事してます。