「映画『砂の器』より ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」

砂の器 サウンドトラックより ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」

砂の器 サウンドトラックより ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」

 75年公開の松竹映画「砂の器」のサウンドトラック。音楽監修・芥川也寸志/作編曲・菅野光亮/演奏・東京交響楽団
 ミュージカルが根づかない日本で、音楽を作品の中心に据え、全編で音の鳴り響く名画って、実はこの作品くらいなんじゃないかな。
 このサウンドトラックも、アルバム一枚分、40分弱をひとつの組曲という形で押し切っており(――A面B面でそれぞれ一曲ずつというトラックの切り方になっている)、かなり冒険的だ。
 聞き手の涙腺を刺激する情緒たっぷりなサウンドの根幹には演歌的な土着性がある。ゲージュツとしてみるとやりすぎの感もあるけれども(――コーダのくどさなんて、ベートーベンを軽く上回っている)、物語のテーマを鑑みれば大正解。
 ちなみにこの映画は人形浄瑠璃を念頭において制作したのだという。物語を語る太夫が事件を追う刑事・今西栄太郎(丹波哲郎)、三味線方が犯人の和賀英良(加藤剛)、そして舞台の真ん中の人形の場所に、全ての核たる父と息子の果てなき道行の絵を置く。曲・語り、両面が自立してあるいは相克して「砂の器」という物語を語るのである。
 この映画が音楽映画として成功した秘訣は、日本に根づいた伝統文化を踏まえた作りにした所にあるのだろう。無論はそれは物語のテーマ――ハンセン氏病と日本の閉鎖的村社会、とも地下水脈のごとく繋がっていく。
 まだこの映画を見たことないという人は人生損しているので見るように。日本映画の至宝だから。そして映画見た人は、絶対サントラ欲しくなるので、これも買うように。35年以上の前の作品だけれども、95年にCD化され、なんと今でも新品で入手可能。