手嶌葵 「The Rose 〜I love Cinemas〜」

The Rose~I Love Cinemas~

The Rose~I Love Cinemas~

手嶌葵、この人は本当に空気感をもっているボーカリストだと思う。
凍った息のような、冷たくも暖かい彼女の声。そこに空間的な広がりがある。聞いていると耳から幻想が広がっていく。
さてさて3枚目は昨年末のライブでの予告通りに映画音楽のカバーアルバムとなったわけだけれども、これは、今までのアルバムの中で一番一般層に訴求するアルバムなんじゃないかな。
誰もが知っている馴染みの映画主題歌たちが、彼女の腕の中、やさしく抱擁されている。まるで人肌の温みのような、暖かなアルバムだ。
猫も杓子もカバーアルバムの昨今の日本の音楽業界だけれども、カバーアルバムってアーティストの、またそのスタッフの地力があらわれるアルバムだとわたしは思う。
退屈な歌手の凡庸なスタッフによるカバーアルバムってつくづく退屈だもんね。
それと比しても、このアルバムは段違い。
曲ごとに表情を変える彼女の声の圧倒的なやさしさ。そこに母性と処女性の間隙を縫うような、危うさもまた漂っている。
ここに収録された曲たちを手嶌がつくづく愛しているがよくわかるし、彼女が稀有なボーカリストであることも、またわかった。
「Calling You」の図らずもセクシーな趣すらあるロングトーン、子守唄のような「Over the rainbow」、
彼女の原点でもあるタイトル曲「The Rose」は当て書きされたもののように、歌と彼女が渾然一体となっている。「Alfie」も「Moon River」もいいんだよなあ。
彼女をどこか優等生的な歌手と捉えている向きの方には是非とも聞いていただきたい一枚。ナイトキャップ代わりに是非。
それにしても彼女の英語歌って、なんだか耳にくすぐったいよね。